STORY

こだわりを突き通す強さ 鈴木清和焙煎士

【現代のアルチザン】GLITCH COFFEE & ROASTERS 鈴木清和さんインタビュー
 

浅煎りで圧倒的にフルーティーなコーヒー。それが、東京・神保町に店舗を構え、日本のみならず世界中からコーヒーラヴァーが集うロースタリー、「GLITCH COFFEE & ROASTERS」のコーヒーだ。

日本のいわゆるサードウェーブの寵児として人気を誇るGLITCH。しかし、オーナーであり焙煎士の鈴木清和さんと話してみると、それは一面的な見方でしかないということに気づかされる。トレンドや目新しさを追いかけているわけではなく、農園への還元を重視する姿勢や、コーヒーのフレーバーを追求する真摯な姿勢、それこそがGLITCHの人気の源なのだ。
 

職人に憧れて

 
「情報処理の国家資格を身につけ企業で働いていた25歳の頃、自分の夢がわからない、という状況に陥って、趣味としてものづくりの仕事を模索し始めました。もともと職人的なことをしたいと思っていたので、いろいろやっていたなかで出会ったのが、コーヒーでした」

ちょうどスターバックスが流行し、バリスタの存在感も増してきた時代に、陶芸やシルバーアクセサリーなどのものづくりの道を目指し始めた鈴木さん。しかし、自分が作ったものと相手が求めるものの間に価値観のズレを経験する。

「ある時、陶芸で自分が作ったものを友達にあげたんですが、あまり喜ばれなかったんです。友達の好きなものや価値観がわからなければ使ってくれないし、お互い納得できるものではなかったんだと思います」

そんな中で一番喜ばれたのが、自分が作った器に淹れたコーヒーだった。

「陶芸をやっていて器の中に入れるものがなかったので、ハンドドリップしたコーヒーを淹れてみたら、みんなが『おいしい』と言ってくれたんです。なんてことはない、普通のコーヒーです。でも、それまでそんなふうに喜んでくれたり、『また淹れてよ』と言ってもらうことがなかったので、これは面白いなと思い始めたんです」
 

世界チャンピオンのもとで焙煎の道へ

 
そこから、コーヒーの奥深さに魅せられていった鈴木さん。豆の産地、抽出方法、バリスタという職業など、様々な要素によって1杯のコーヒーが作られていることを学び、勤めていた会社を辞め、バリスタ日本チャンピオンのもとで修行をしたり、焙煎工場に勤めたりと、バリスタやコーヒーについての修行を2年ほどしていた。

「そんな時に、オーストラリア出身のバリスタ世界チャンピオン、ポール・バセットが日本にお店をオープンすると聞いて、スタッフとして参加したんです。現在も第一線で活躍している焙煎士も修行していて、GLITCHがいろいろなお店とつながりがあるのは、この時の人間関係が大きいんです」

この当時、「Paul Bassett」のようにシングルオリジンの豆を使って店内焙煎したコーヒーを出す、オセアニアスタイルの店舗はほとんどなかった。日本に導入するのが早すぎたとも言われていた。そんな店で「焙煎」や「シングルオリジン」について深く知っていくことになる。

「『Paul Bassett』に入ったのが、自分がコーヒーの世界に携わってから2年目くらいでした。バリスタの技術も知りたいけど、焙煎技術の方がもっと知りたい。なので、ポールに認めてもらうために、それからは朝昼夜にかかわらず、時には寝ずに、トレーニングし続けました。それがポールに通じたのか、『焙煎してみたら?』と言ってもらえたんです」

ただ、オーストラリアでの考え方は分業制。QC(クオリティコントロール)、マネージャー、店舗運営、バリスタ、焙煎にそれぞれポジショニングするのが一般的で、兼務はしない。「バリスタをやりたいのか、焙煎をやりたいのか」と問われた鈴木さんは迷わず「焙煎がやりたい」と答えた。焙煎を仕事にする、その決意が固まった瞬間でもあった。
 

シングルオリジンにこだわる理由

 
 
「Paul Bassett」での修行を続けたのち独立、鈴木さんはGLITCH COFFEE & ROASTERSを東京・神保町にオープンさせた。2015年のことである。

「人一倍心配性」と語る鈴木さんは、良い豆の仕入れに関しても既に手を打っていた。焙煎、バリスタの技術、そして店のコンセプトまで、自分のやりたいことを明確にしてから初めて起業したのだ。

こだわったのは、シングルオリジンのブラックをメインにする、ハンドドリップで淹れること、この二点だった。エスプレッソ、カフェラテメインで、ブレンドもしている「Paul Bassett」とはまったく違うコンセプト。これを打ち出す際に思い浮かていべたのは、コーヒー豆の向こうにいる農園の生産者たちの顔だったという。

「実際に農園を訪れることもありますが、農園からしてもブレンドすることに『NO』とは言えないので、『そこは僕たちには何も言えない』と言って悲しい顔をするんです。だから、GLITCHではシングルオリジンでやりたい、と考えていました。

もうひとつ、コーヒーを飲む方は、それぞれの豆の味を知らないので、それを混ぜたらどんな味がするのか判断がつかないと思うんです。各オリジンの個性を理解しないまま混ぜてしまったら、農園の人たちの努力が無駄になってしまいますし、どの品種のどの農園の豆、ということが言えなければ、農園の方にしっかり還元できなくなります」

シングルオリジンだからこそ農園に還元できる──その思いから、当然豆に対してのこだわりは人一倍。常にいい豆を探し続けており、その思いはお客様にも確実に届いています。

「お客様の中にも、『あのエチオピアのサコロ農園のコーヒーが美味しかった。今年はないの?』と、農園の名前を覚えてくださる方もいるんですよ。現地の人からしたら、日本で農園を名指しで求めてくれるのってすごくうれしいと思うんです。そういう声がもっと聞ければうれしいですね」
 

1杯のコーヒーに込められた多くの人の「努力」

 
「人間って少ない時間しか生きられないじゃないですか。その時に手にするものをちゃんと選べることが大切。
コーヒーにしても、100円のコーヒーに対して努力が欠落している部分がたくさんあると思うんです。どんな豆なのか、マシンの清掃は毎日しているのか、焙煎日はいつなのか、オリジンはどこなのか。それがわからないものをボタンを押して買う。

GLITCHのコーヒーは600円くらいから3500円くらいまであるんですが、農園の人たちが努力をしていい豆を作ってくれているんです。農園に行けばその努力も目に見えますし、他のコーヒーと全然違う作り方をしていたりもします。

それを持ってこようとする人たちの努力もコーヒーの“味”になっていると思うんです。

そして、僕ら焙煎士が集中して、その味を引き出し、バリスタが抽出して1杯のコーヒーが生まれる。そう考えると、600円という値段は安すぎるくらいだと思っているんです」

GLITCHには、特別なフレーバーの豆を提供するマニアックな店、というイメージもあるかもしれない。しかしそこには「コーヒー本来の味を消費者に知ってほしい」という強い思いがある。
 

浅煎りは一つの手法にすぎない

 
 
GLITCHを象徴する焙煎、それはライトロースト=浅煎りだ。しかし、浅煎りが目的ではないと鈴木さんは語る。

「浅煎りしかやらないのではなく、シングルオリジンを知りたいと思ったら、そういうロースティングポイントを突かなければならない。カッピングやテイスティングをする際に、深煎にすることはありません。肉の品質を知ろうと思ったら、ウェルダンではなくレアの方が分かりやすい。いい品質かどうかを見極めるためには、焦がしすぎてはいけないんです」
 

カフェとしての歴史を大切に

 
新しいコーヒーの潮流を生み出したともいわれるGLITCH。将来のGLITCHの姿を窺うと、少し意外な答えが返ってきた。

「神保町にお店を出した理由でもあるんですけど、ミロンガ(・ヌオーバ)さんとか、さぼうるさんとか、素晴らしいお店がたくさんありますよね。僕がカッコいいと思っているのがああいう店舗なんです。

ポッと出のカフェがいくら流行っても、ああいうお店のオリジナリティには勝てないし、考えも深い。そういうところに共感します。やはり下積みとか歴史は大切ですね」

東京、大阪、名古屋と、着実に店舗が拡大しているGLITCHだが、あまり増やそうとは思っていないという。

「店舗を多くしすぎると、自分の味が作れなくなっちゃうんですよ。限界が出てきてしまう。

できれば1店舗がいいんです。自分の作りたい味を作るためには、オリジナルの店じゃないとできない。みんなコピーになってしまいますから」
 

「GLITCH」が固定概念を覆す

 
 
GLITCHでは、鈴木さんがクオリティコントロールを一手に担っている。それだけ聞くと「他に任せられる人材がいない」というタイプの職人気質を想像するが...。

「『GLITCH』って言葉の意味、ご存じですか? 『システムバグ』という意味なんですよ。
自分だけがコーヒーを作ったり焙煎していると、常識的な範囲内でこうしたらこうなるとわかっているので、固定概念ができてしまっているんです。

最近、スタッフの子に家でどんなふうに飲んでいるのかを聞いて、そのハンドドリップのやり方をそのまま店でやってもらったら、それがおいしかったんですよ。自分がわからないこと、思いもしないことから発見することもいっぱいあるんです。いわば『バグ』みたいな発見ですよね」

最近は、オープン前からトレーニングしているスタッフを見て、自分もあらためてトレーニングしていると鈴木さん。新人の感性もうまくミックスできる柔軟性ももった焙煎士だった。
 

CROWD ROASTERへの期待

 
「自分たちは考えもつかないサービスなので、どういう世界をイメージしているんだろう、この先の未来はどうなるんだろう、と思ったりしますね。誰もやっていないサービスを生み出すわけですから、うまくいく、いかないは関係なく、誰も踏んでいない道を行くところがカッコいいと思います」


Profile
焙煎士 鈴木 清和 さん
20代の頃、将来の夢に悩む中でスペシャルティコーヒーと出会い、コーヒーの世界へ。オーストラリア出身の世界バリスタチャンピオン、ポール・バゼット氏のもとで本格的に焙煎に携わり、2015年に「GLITCH COFFEE & ROASTERS」を東京神保町にオープン。シングルオリジン、ライトローストにこだわり、ここでしか味わえないフルーティーなコーヒーが多くのコーヒー好きを魅了し続けている。東京、大阪、名古屋に3店舗がある。

Shop Information
 

GLITCH COFFEE & ROASTERS
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町
3丁目16 香村ビル1F
営業時間 平日 7:30〜20:00、休日 9:00〜19:00
定休日 なし
https://glitchcoffee.com/
 
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