CROWD ROASTER’S INTERVIEW

焙煎が豆を生かし、
生産国を豊かにする

KOTO COFFEE ROASTERS

「僕は『焙煎士』という呼び方は使っていないんです。コーヒー焙煎は弁護士や税理士さんとかみたいに国家資格が必要な『士業(さむらい業)』と呼ばれるような仕事じゃありませんから」

穏やかな笑顔をたたえながら、KOTO COFFEE ROASTERSの阪田正邦さんはこう切り出しました。阪田さんが自らを示す言葉は「焙煎人」もしくは「ロースター」。カッピングの師匠である名古屋のスペシャルティコーヒー豆専門店「豆珈房」の谷口さんの言葉が頭に残っていると言います。

阪田さんは、2019年の「ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ」で見事チャンピオンを獲得し、奈良県五條市の古民家でマイクロロースタリー「KOTO COFFEE ROASTERS」を営んでいます。橿原市にあった頃はドリンクのテイクアウトもしていましたが、現在は世界チャンピオンを目指し、オンライン販売と提携店から依頼を受けての焙煎1本で、ストイックに焙煎技術を研鑽し続けています。

世界を旅行しながら感じた貧困

阪田さんが「焙煎人」を目指したきっかけは20代の頃の旅行経験。お笑いコンビの猿岩石が世界を旅する番組が人気を博していた時代でした。もともと世界中を旅するのが大好きだった阪田さんも、お金が貯まるとバックパッカーとして世界約80カ国を旅します。

「先進国も発展途上国も分け隔てなく、ユーラシア・アフリカ・オセアニア・北米・南米と南極以外のすべての大陸を旅行しました。そんな中で世界の貧困層の現実を目の当たりにしたんです。

カンボジアでは、国境に入った瞬間にお金を求める子どもたちに取り囲まれました。フィリピンのスラム街にも行きましたし、アフリカではケニア、タンザニア、ルワンダ、エチオピア……などなど、多くの国を訪れました」


旅をする中で感じたのは、現地の貧困状況を見て「何とかしたい」と思っても何もできないというもどかしい気持ち。そんな思いを抱えていたある日、とあるコーヒーに出会います。


「10年ほど前、東京のあるコーヒーショップでエチオピア・イルガチェフェ・ウォッシュトというスペシャルティコーヒーに出合いました」


品種は在来種(heirloom)。フローラルで柑橘系の爽やかな酸味と、アールグレイティーのようなフレーバーにカルチャーショックを受けました。それまでコーヒーを美味しいと思ったことが一度もなく、そのあまりの美味しさに感動した阪田さんは、スペシャルティコーヒーについて調べていく中で、ソーシャルビジネスとしてのスペシャルティコーヒーの可能性を知ります。


「20代の頃は何もできなかった自分ですが、スペシャルティコーヒー業界であれば、すべてのコーヒー農家を救うことは難しくても、美味しい生豆を作るテロワール(その土地の地形、土壌、標高、気候といった自然環境)のあるコーヒー農家なら貧困から少しでも救うことができるかもしれない。消費者に美味しいコーヒーを提供することが、生産者の生活の向上に寄与するシステムであれば、自分みたいな個人でも貢献できる、と思いました」


この頃から、その道の先駆者でありコーヒーハンターとして有名な川島良彰氏のような生豆バイヤーを目指して、カッピングを勉強し始めます。しかし、焙煎も理解しないとその味が生豆由来なのか焙煎によるものかがわからない。そこで、自ら焙煎を手掛けるようになります。


「コーヒー・バリューチェーンの中で生豆バイヤーのひとつ川下になる自家焙煎業なら、買い付けにも同行できるし、カッピングも向上できるという想いから、マイクロロースター(焙煎人)として起業に至ったんです」


わずか2年半で焙煎日本チャンピオンに

行動を起こし始めてからの阪田さんは勢いが止まりません。焙煎人としてロースタリーを起業したのは2017年6月のこと。家から徒歩5分のところに、家賃5万円の小さなお店「KOTO COFFEE ROASTERS」はスタート。さらに焙煎の勉強を進めていきます。


「とても運が良かったんです。僕が導入した焙煎機はWCRC(ワールド コーヒーロースティングチャンピオンシップ)でも使われるGiesen社製の『W6A』で、当時の日本チャンピオンが世界大会の準備で焙煎機に慣れるためにうちのお店で練習してくださるようになりました」


同時に、大阪で行われていた日本トップレベルの焙煎人が集まる研究会にも参加。毎月一回、課題豆を設定して焙煎して誰が一番美味しく焙煎できたかを競い合うその会の中で、めきめきと実力をつけていきました。

そして見事、「JCRC2019」で優勝。開業からわずか2年2か月で、日本の焙煎チャンピオンに輝きました。

素材のポテンシャルを引き出す焙煎

「阪田さんが考える『焙煎』って、コーヒーの味を決める上でどんな作業なんですか?」と尋ねてみたところ、「料理のようなもの」と言います。


「まだ輸送技術が発達していなかった昔のフランス料理は、ソースを発展させて、よく言えば様々な素材を組み合わせてハーモニーを奏でるかのような奥行きのある料理ですが、悪く言えばソースでごまかしていました。フランス国内から運ばれてくる食材がパリに到着する頃には鮮度が落ちているからです。

それに対して、三方が海に面しているために新鮮な食材が豊富なイタリア料理は、いい素材が手に入るが故にシンプルな味付けで素材を活かすやり方です。どちらのやり方も、焙煎には必要だと思います。


突き詰めると素晴らしいテロワールから生まれた本当に美味しい豆しか扱えなくなります。ですが、たとえば標高が低い地域でそれほど素晴らしいテロワールでない豆でも、人の手をしっかりと加えて栽培管理、収穫、生産処理、選別、そして品質管理が適正になされていれば、欠点豆の混入が最小限になり、カッピングスコアが80点を超えるスペシャルティコーヒーになります。

そのようなコーヒーは華やかなフレーバーや明るい酸味こそ持ち合わせていませんが、雑味は少なくやさしい酸味や甘さはあります。焙煎によってそういった目立たない部分を上手く引き出してあげれば、もっと売れて生産国にお金が落ちるようになる。

カップ・オブ・エクセレンス入賞豆のようなトップ・オブ・トップのコーヒーは、それこそイタリア料理のように素材の持つフレーバーを最大限に引き出す浅めの焙煎をしたい。また、スペシャルティコーヒーのボーダーラインにいる豆は、古典のフランス料理のように少し深めの焙煎をしてキャラメライズさせます。甘さを加えた酸味・甘さ・苦みのバランスがよいコーヒーに仕上げたり、様々な素材をブレンドすることにより足りない部分を補い合って、ハーモニーを奏でるかのような奥行きのあるコーヒーに仕上げて美味しくしたいんです」


事実、阪田さんが自分のお店で扱っている豆は必ずしも高価なものばかりではありません。それこそが、20代で旅をする中で感じた、世界の貧困問題を解決したいという阪田さんの矜持。

焙煎チャンピオンにまで上り詰めた阪田さんの技術と知識によって、生豆が持つポテンシャルが最大限引き出され、珠玉の1杯が生まれるのです。

CROWD ROASTERで、出会ったことのない
コーヒーを

ダミー

「僕のように小規模でやっているマイクロロースタリーにとっては、CROWD ROASTERによって、いろいろな豆を焙煎できるようになるのはうれしいですね。この新しいプラットフォームで、今まで出会わなかったお客様と出会えるのを楽しみにしています」


現在、来たる世界大会に向けて日々研鑽を積んでいる阪田さん。スペシャルティコーヒーで貧困の解決の一助になりたいという夢をかなえるためにいま一番欲しいのは、世界チャンピオンの称号です。


「世界で活躍することで、より多くの貧しい生産者とつながり、生産国の貧困を解決の一助になりたい」


焙煎を信じ、焙煎によって世界を変えようとした阪田さんは、さらに多くの世界を変えようと焙煎機と向き合い続けています。


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