STORY

「おいしいコーヒーのために自分にできることはすべてやる」和珈屋 小林伸也焙煎士インタビュー

JR福井駅からクルマで約10分、休日になると地元の家族連れでにぎわう福井少年運動公園の向かいに、自家焙煎のコーヒーショップ、和珈屋(わこや)があります。


店を運営しているのは、代表の小林美和さんと、その夫であり品質管理最高責任者・焙煎士の小林伸也さんのご夫婦。生豆選びから抽出まで、コーヒーに関する工程すべてに関する資格や大会での輝かしい成績を持ち、「珈琲豆専門店」を謳っています。

美和さんの「スペシャルティコーヒーを特別ではなく日常のコーヒーとして地元福井の人たちに届けたい」という思いから始まった和珈屋は、地元福井県はもちろん、通信販売などをとおして日本中のコーヒー好きからも注目を集めています。

「良質なコーヒー豆を届けたい」

伸也さんが焙煎士になったきっかけは、美和さんがコーヒー豆の卸・小売のロースターとしての独立を決めたことでした。

「元々、教育関係の仕事をしていた妻は、出産を機にコーヒーの営業職に転職。福井では良質なスペシャルティコーヒーはまだ手に入りにくく、『福井でも良質でおいしいコーヒーを適正価格で広めていきたい』と、独立することにしました」

コーヒーに関する知識や経験が豊富な美和さんが営業兼社長業を務めることになりますが、自家焙煎を行うためには当然焙煎士も必要。それまでコーヒーには縁のなかった伸也さんでしたが、積極的にセミナーや勉強会などに参加し、カッピングスキルや焙煎の知識も高めていき、焙煎を担当することになりました。

もちろん、焙煎自体もゼロから独学でのスタート。しかし、それまでの仕事で培ったスキルがここで生きます。

「もともとスポーツ用品店でスキーやスノーボードのメンテナンスや取り付け、ラケットのガット貼りなど技術職、その後は業務用機械のメンテナンスなどの仕事に携わっていました。今にして思えば、何かをきれいに仕上げる作業というのは苦ではなかったですし、焙煎して豆をおいしく仕上げるというところと似ていたのかもしれませんね」

機械に対する理解度の高さを備えていた伸也さんは、店舗探しの過程で、味へのこだわりや理解もより深めていきました。

「仕事が終わってから、妻と2人でカッピングしていくうちに、良質なコーヒーとそうでないコーヒーの違いが分かっていき、僕が焙煎して2人で味をチェックする、という形が自然になっていきました」

あらゆる資格や大会に挑戦

こうして、スペシャルティコーヒーのみを扱う焙煎所としてオープンしたのが2009年のこと。小林さん夫妻は、そこから自己研鑽を重ねます。

和珈屋を始めるにあたり、夫婦そろって、SCAA/CQI認定 Qグレーダー(珈琲鑑定士)、JCQA認定 生豆鑑定マスター、SCAJ認定 コーヒーマイスター(美和さんはアドバンスドコーヒーマイスター)といった資格を取得し、コーヒーを扱う者としての知識や技術をかたちとして見えるようにしたのです。

美和さんは、豆の品質や味を確かめられる能力を活かして、SCAJ(スペシャルティコーヒーアソシエーションオブジャパン)が主催するハンドドリップ、バリスタ、サイフォニスト、ロースティング、ブリュワーズといったさまざまな大会で認定審査員として活躍。

一方、伸也さんは選手として競技会に積極的に参加。代表的なものだけでも、2015年JCRC(ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ)準優勝、2016年JCTC(ジャパンカップテイスターズチャンピオンシップ)準優勝、直近では2023年のPCRC(パナマコーヒーロースティングコンペティション)のゲイシャ部門・トラディショナル部門で2冠を達成しました。これ以外にもたくさんの競技会で好成績を修めています。

独学から始まったからこそ、競技会に参加することで世界が広がっていったと伸也さん。

「(コーヒー業界で働いた)経験はないけれど、プロとしてやっていくのならとことんやるしかないという覚悟は、逆にできたかなと思います。店を立ち上げた時にちょうど良質な豆が出始めていたので、タイミングも良かったですね」

良質な豆と出会い、それを福井の人たちに届けたい──そんな思いから、16坪の小さなテナントから始まった和珈屋は、3年目で駐車場も備えた200坪の現在の店舗に移転を果たします。この頃、さまざまな競技会で伸也さんが入賞するようになっていきました。

「From Seed to Cup」を第一に

夫婦そろって生豆の鑑定、カッピング、焙煎技術、抽出技術まで、コーヒーに関する総合的な知識と技術を身につけてきた小林夫妻。その理由は、「From Seed to Cup」(種子からカップまで)のすべてにおいて、品質や温度を徹底的に管理したおいしいコーヒーを提供したいという強い思いからでした。

「コーヒーの営業を進めていくうちに、だんだんとお客さまに本当により良いものを、適正な価格で提供したいと考えるようになりました」

その言葉のとおり、和珈屋の店舗で扱うコーヒーは、オークションやコンテストに入賞するような「トップスペシャルティコーヒー」と、厳密な品質基準をクリアした高品質な「スペシャルティコーヒー」のみ。そのために、世界中のコーヒー農園をめぐり、現地の生産者との関係も築いてきました。

オープン当初はまだ店舗の知名度は低く、卸が売上のメインでしたが、競技会での活躍などを経て実力が知れ渡り、店舗も徐々に評判が高まっていきます。

「いま思えば、競技会やセミナーなどでいろいろな方と出会って考えを聞き、勉強した事を実践し、お客さまに還元するという好循環になっていましたね。審査する側としての経験を積むことで、おいしいコーヒーとは何かを考え、コーヒーと向き合う日々につながっています」

日常業務と競技会の準備、練習の両立は大変ですが、それがいい刺激にもなっていると言います。

「競技会に出場することによって日々の焙煎作業がマンネリ化せず、新しいことに挑戦できています。大変ですが、結果が出ても出てなくてもお店に取り入れられますしね」

経験を積んでなお、コーヒーに関する技術の練習と日々の仕事。そのひとつひとつの経験が、和珈屋の評判と成長につながっているのです。

「PCRC」での出会い


最近の大会の中では、2023年のPCRC(パナマコーヒーロースティングコンペティション)での2冠が大きな話題となりました。ゲイシャとトラディショナルという2種類の豆の焙煎で、どちらも見事に優勝を飾ります。

「PCRCは、テーマがまず決まっていて、予選はグループごとに勝ち上がっていく形式でした。また、そのテーマに合わせて、この豆をどんな意図で焙煎したかというプレゼン資料を提出することが、このPCRC独自の方式です。プレゼン資料などでもたくさんの方々に助けていただいて、決勝ではとても良いプレゼン資料とそれに見合うコーヒーがおいしく仕上がりました。なにより審査員の方やお客さまに判断してもらって優勝できたことは、大きな自信にもなりましたね」

さまざまな大会で活躍する伸也さんにとって、「焙煎とは何か」と尋ねてみると、「スペシャルティコーヒーの多様性のある風味・甘さ・クリーンさをバランス良く引き出すこと。珈琲豆を買ったお客様が普通に淹れて飲むコーヒーがいつも変わらず美味しいことが大事」と一言。競技会の場のみおいしいものではなく、あくまでお客さまファースト。

「競技会用に焙煎した豆は極浅煎りも多く、技術ある人は上手く扱えるが、一般の人には抽出が難しいものもあります。豆によって抽出の調整が必要だったりします。誰が淹れてもおいしいというストライクゾーンがあるとしたら、僕は、そこを狙ってお客さまが普通の淹れ方でおいしく飲めることを大切にしています」

それを実現するための技術が「適正な焙煎」。焙煎機による特性やプロファイルでの制御と伸也さん自身が作業する部分での微調整もすることで、抽出の腕にかかわらずストライクゾーンが広いコーヒーに仕上げています。

「浅煎りであってもおいしく淹れられるよう、プロファイルなどで微調整しているイメージですね。いつもより深煎りにする時も、深煎りで現れがちな悪い味を出さないように気をつけています」

そんな和珈屋の焙煎機は、Probatの25kg釜という大型のタイプ。大きさが必要だったこともありますが、蓄熱性の高さ、排気効率の高さ、半熱風の使い勝手が気に入っているそうです。

「熱風式と蓄熱式のどちらのいいところも表現できて、キレイな浅煎りもしっかり甘い深煎りもできます。25kg釜ですが、多めの焙煎から少なめの焙煎まで安定したプロファイルで管理できるので、2kgくらいの少量からでも焙煎する事もあります」

生産者と消費者の「おいしい架け橋」に

和珈屋では、毎年コーヒー生産国に足を運び、農園の方々とも積極的に交流しています。コーヒーは農作物ですから、毎年の出来も変化します。現地でカッピングをして、生産プロセスを確認しています。最新の情報を仕入れ、自分達の言葉で伝える事がお客様からの安心感と信頼感につながっています。

スペシャルティコーヒーの生産者達は新品種・新プロセスなど、毎年何かしらの新しい事にチャレンジし、努力しています。彼らが新しく取り組んだコーヒーを、消費者に届ける事も毎年、生産国に行く和珈屋が出来る事。そして価格以上のコーヒー体験を提供出来るよう、ロースターとしての技術もさらに磨いていく事も大切だと考えます。

福井といえば和珈屋、という店に

CROWD ROASTERへの参加に関して、「CROWD ROASTERを利用するお客様との新しい出会いが、楽しみ」と伸也さん。

「CROWD ROASTERは日本で有名な焙煎士の方がたくさん参加されているサービスというイメージがあるので、 そこに入れていただけることはとてもうれしいです。今まで様々な競技会で切磋琢磨し合ってきた、大切な仲間達の顔ぶれもあり身が引き締まる思いです。新しい事に挑戦できるのは競技会と同じでワクワクします。CROWD ROASTERで得た経験をまた、他でも生かしていきたいですね」
 
珈琲豆専門店 和珈屋としてのこれからの目標は、福井県、そして全国で認めてもらうことです。

「おいしいコーヒーを家で飲もうと思った時、福井でコーヒーと言えばやっぱり和珈屋だね、と言ってもらえるお店でいたいですね」

CROWD ROASTERでの第1弾のセットは、伸也さんの目にもかなったパナマの飲み比べセット。
入手困難なアルティエリ ゲイシャをはじめとした、トップクオリティのパナマコーヒーを30gずつ3種セットにして、小林伸也さんによる焙煎でお届けします。

PCRCチャンピオンの焙煎の妙を、この機会にお試しください。

<商品詳細>
リミテッド パナマ ボックス2 feat. Shinya Kobayashi
希少なパナマコーヒー3種セットです。
・アルティエリ/ゲイシャ/ウォッシュト/Dilgoロット90+
・ハートマン農園/チチョガロ/ハニー
・コトワ農園/エチオピア原種/ナチュラル
30g×3種
¥2,980(税込)


Shop Information
和珈屋(わこや)
福井県福井市福2丁目1914
OPEN:9:30〜17:00
CLOSE:火曜日