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エスメラルダ農園のゲイシャは何がすごい?改めて解説します


パナマ エスメラルダ農園のゲイシャ種のコーヒーは、世界で最も有名なコーヒー銘柄ということができるでしょう。
これまで、エスメラルダ農園についてさまざまにご紹介してきましたが、あらためて、なぜそこまで有名なのかをご紹介します。

世界中が注目するエスメラルダ農園のゲイシャ

世界最高峰のコーヒー豆を生産する農園として知られている、エスメラルダ農園(Hacienda La Esmeralda)は、パナマ西部のチリキ県ボケテに位置する農園です。バル火山の裾野、平均標高1,600mに位置しており、豊富な降雨量、豊かな土壌、保全された森林など、自然環境に恵まれています。
4つの農園を持ち、農薬を使わず、完熟実だけを手摘みし、収穫後の精製、乾燥など、細心の注意が払われています。


このエスメラルダ農園は、ピータソン家(Peterson Family)の所有する農園です。

もともとは牧草地でしたが、1980年代後半からコーヒーが植えられるようになりました。その後、1997年に新しい農園「ハラミージョ」を購入し、コーヒー農園を拡張。
この土地に偶然植えられていたのがゲイシャ種でした。

このゲイシャが特別な味わいを持つことに気がついたピータソン家では、これまでにない方法でコーヒーの栽培・生産を始めました。
農園の区画ごとに精選を行いロットを分離したのです。その方法で作られたゲイシャを2004年にパナマの国際オークション、ベスト・オブ・パナマ(BEST OF PANAMA)に出品。見事に優勝し、1ポンドあたり21ドルの当時最高額で落札されたのです。

ゲイシャ種はそのユニークな香味特性とともに、高額なコーヒーとして一躍、世界にその名が知れ渡りました。

この年から、エスメラルダ農園のゲイシャは、ベスト・オブ・パナマで4年連続で優勝し落札価格も自らの記録を更新し続けました。2007年のオークションでは1ポンドあたり130ドルという記録を大きく更新し、2008年にはエスメラルダ農園のみを扱う、スペシャルオークションが行われるという、まったく別格の扱いを受けるまでになったのです。
 
2011年には、ゲイシャのナチュラルがオークションに初めて出品されました。ゲイシャ ナチュラルは、次第にウォッシュトより人気を集めるようになり、2017年、エスメラルダ農園のカーニャベルデ(モンターニャ区画)農園のゲイシャ ナチュラルは、1ポンドあたり601ドルという、破格の世界最高落札額となり、世界中の注目を浴びました。
 
このように、ベスト・オブ・パナマでの度重なる優勝や、世界最高額での落札といった快挙は、エスメラルダ農園とゲイシャの名を特別なコーヒーとして広めることとなったのです。

エスメラルダ ゲイシャのランクは3ランク

エスメラルダ農園のゲイシャは、「Esmeralda Special(エスメラルダ スペシャル)」「Private Collection(プライベート コレクション)」「Geisha 1500」という、3つのブランドが存在します。
 


その最上級ランクである、「エスメラルダ スペシャル」は、プライベートオークションに出品される特別なクオリティのゲイシャにのみ名乗ることのできるブランド。
標高1600m〜1800mのエリアであるハラミージョ、カーニャベルデの両区画で栽培され、「90点以上」のカッピング評価がされたロットにのみに与えられます。

ゲイシャ種の栽培経験が豊富なエスメラルダ農園であっても、気候や環境、生産タイミングによってカップクオリティは変化し、TOP OF TOPといえる最高のゲイシャは、ごく一部。厳しい選別を経て、選ばれたロットだけがその名を冠されるエスメラルダ スペシャルは、まさに世界最高峰のゲイシャであり、マイクロロットだといわれています。
 

「プライベート コレクション」は、「エスメラルダ スペシャル」と同じく1600m〜1800mのエリアで栽培されたロットをブレンドしており、90点には満たないながらも、87〜90点というエスメラルダの高地栽培のゲイシャの豊かなアロマなどの特性をしっかりと感じられるブランドです。
 
 
「ゲイシャ1500」は、1400m台以上のエリアで栽培されたゲイシャで、エスメラルダ農園としては高地の栽培ではないものの、爽やかなフレーバーを持ち、上位ブランドと同様に管理されたものです。

農園内の区画ごとに細かなロット分け

エスメラルダ農園の中には、ゲイシャ種を栽培している3つの農園があります。ハラミージョ(Jaramillo)、カーニャベルデ(Cañas Verdes)、エルベーロ(El Velo)とそれぞれ名付けられています。

ハラミージョは農園主のピーターソン家が最初に偶然植えられていたゲイシャを発見した農園。いつも霧がたち込めるというこの農園では、標高1,600〜1,700mを含む区画にゲイシャが植えられ、エスメラルダ ゲイシャのなかでも、代表的なロットが生産されています。


いっぽう、カーニャベルデは、ハラミージョが最高1,700m台に対し、さらに高い2,000m付近まで栽培区画となっており、ハラミージョとは異なる微気候によって、異なる個性のゲイシャが生み出されています。

ちなみにこのカーニャベルデは、ピーターソン家が1960年代後半、最初にエスメラルダ農園を入手したときに含まれていた土地。ただ、そのころの農園は肉牛用の牧草地で、コーヒー栽培が本格化するのは1990年代になってからでした。

エルベーロは、エスメラルダのなかでももっとも新しく開園した農園で、ゲイシャの他に、実験的に数多くの品種が植えられている農園。

さらに、それぞれの農園内で、斜面や地理条件の違いで、10以上の区画(セクション)分けをしていて、合計すると数十セクションのそれぞれ特徴あるロットが生産されていることになります。

より細分化された「ナノロット」への流れ

そもそも、パナマのコーヒーは1990年代初頭まで品種を分けて扱うといった考え方すら存在せず、すべてまとめられて一般向けに出荷されていました。

90年代にパナマスペシャルティコーヒー協会が設立され、国際的な品評会が行われるようになると、一部では品種ごとに分けてコーヒーを生産することが行われるようになったが、エスメラルダ農園では、さらに注意深い検証が行われていました。


ハラミージョ農園で発見されたゲイシャは、より高い高度の区画に植えられ、農園内の区画ごとに、収穫したチェリーを精選処理を行い、それぞれを評価して品評会に出すロットを選定したのです。

このようにして生み出された「ハラミージョ スペシャル」は、前述の通り、2004年のオークション「Best of Panama(ベスト オブ パナマ)」で当時破格の最高価格で落札。

この成功後、農園はさらなるロットの分離を推し進め、Esmeralda Special(エスメラルダ スペシャル)、Private Collection(プライベート コレクション)、Geisha 1500という、3つのブランドを構築。

さらに近年は、より細分化の方向へと進んでいる。以前よりも1ロットの単位が少なくなり、より細分化され、それぞれの個性を前面に出しての、よりナノロットな展開がここ数年、注力されてきました。

ロットには収穫日による違いもあり、チェリーの熟し具合やその時の気象条件によって収穫するタイミングを見極めているはずで、穫れたチェリーの状態によって、その後のプロセスを調整していると言います。

カーニャベルデの区画ごとのフレーバー

農園主のピーターソン家が最初に偶然植えられていたゲイシャを発見した農園、ハラミージョ、そして現在多くのオークションロットが生み出される、標高のさらに高いカーニャベルデが、ゲイシャを主に栽培している農園。


カーニャベルデは、12の区画に分かれており、それは1つの大きな農園の区域というよりは、斜面に点在しているというイメージ。カトゥアイを栽培しているDiamond Mountain以外は、ゲイシャを栽培しています。

それぞれの区画は、気候、気温や日照、さらに土壌にわずかな違いが見られ、エスメラルダ農園ではそれぞれユニークなフレーバーがあるとしています。それぞれの区画は数ヘクタールの広さで、Montaña(モンターニャ)はわずか0.5ヘクタールの栽培区域の広さとなっています。

とても興味深いので、農園が示しているカーニャベルデの区画ごとのフレーバーの一覧を次に掲げてみます。

Montaña:ベルガモット、ジャスミン、ピーチ
Tumaco:ジャスミン、チョコレート
Cabaña:ジャスミン、ウォーターメロン、ピーチ
Leon:ジャスミン、ストロベリー、ピーチ
Fundador:ジャスミン、メロン、スイート
Lino:ピーチ、赤リンゴ、ジャスミン
Coronado:ジャスミン、レモン、スイート
Chinta:ピーチ、レモングラス、ジャスミン
Trapiche:ジャスミン、レモン、ストロベリー
Colga:スイート、ライトフローラル
Nido:(不明)
Diamond Mountain(カトゥアイ):ナッツ、オレンジ

こうしてみると、エスメラルダ ゲイシャの代表的なフレーバーであるジャスミンが軸となっているが、それぞれ少しずつ異なるフレーバーがあるとされています。
こうしたわずかな違いを表現できるほど、ロットの管理が行われているというのは、本当に驚くべきことです。

これほどのマイクロロットの生産管理を行うには、従来の生産過程を大きく見直す必要があります。しかし、エスメラルダ農園はゲイシャを栽培し始めた当初からロット分離に取り組んできた農園であり、長きにわたる経験によって、ここまでの厳密な管理を行うことが可能になっているのです。

このように、そのコーヒーが品質が高く、豊かなフレーバーを持っているということだけでなく、徹底した管理でトレーサビリティを確保し、詳細な情報までしっかりと公開する姿勢が、エスメラルダ農園のコーヒーを特別なものにしているのです。