35歳以下の若手焙煎士の発見・育成を目指す焙煎大会「1ST CRACK COFFEE CHALLENGE」(ファーストクラックコーヒーチャレンジ。略称「1CCC」)の決勝が、2024年9月13日(金)に東京カルチャーカルチャーで開催されています。
決勝ステージは、6名のファイナリストが今年のテーマ「ロースターとして、持続的なコーヒーのために出来ること」をイメージしたプレゼンテーションと、ORIGIN COUNTRIES提供の生豆50%以上を含むウェルカムドリンクを提供。4名のジャッジが9つの評価項目を5点満点で採点し、総合得点によって順位が決まります。
優勝者には、Giesen Coffee Roasters オリジナルトロフィー、日本〜オランダの往復航空券+ギーセンファクトリー見学、味の素AGF株式会社の徳之島コーヒー収穫祭への招待、焙煎機の購入時サポートといった賞品が授与されます。
本記事では、決勝ステージに進出した6名のファイナリストのプレゼンテーションのうち、ほんの一部だけですが、現場からリアルタイムでご紹介していきます。
黒田由和(Ariowl Coffee)
黒田さんの今年のテーマに対する結論は「継承」。といっても、儲からないから続けられないという現地のコーヒー農園の問題だけではありません。自身がコーヒーだけでは難しいと製菓学校から飲食業を経験してきた経験から、夢を持ってコーヒー業界に入ってきたものの、続けていけないという若い世代のコーヒー離れを防ぐことも「継承」だと語り、コーヒー業界でお金をしっかり稼ぐことができ、多様な仕事があるようにすることだと言います。
その課題に対するアクションとして、価格設定を考えることと、技術の安売りは業界を破壊するということを強調。若者との関係をつくり、母校との関係性も維持すること、働く人の待遇が良くなることこそが、コーヒー業界のサステナビリティであるとまとめました。
ウェルカムドリンクには、ケニア+パナマ ゲイシャ ナチュラルのブレンドを提供し、テーマにもあるようにサポートの学生さんに抽出を任せることで、若者への応援の気持ちをプレゼンテーション全体でもご紹介されていました。
照屋由李佳
個人としてファイナリストに選出された照屋さんが考える、今年のテーマに対するゴールは、「適正価格で販売すること」。
最初に、「コーヒーといえばどんなイメージですか?」と会場に問いかけ、一般的なコーヒーのイメージを語りながら、自己紹介とともに生まれ故郷である沖縄について語り始めました。
その質問に対して「フェアトレード、ということを思い浮かべた方はどれくらいいるでしょうか?」と語り、コーヒーにおけるフェアトレードについて紹介。世界と日本のフェアトレードの市場、一人当たりの消費量の差が非常にあることに触れ、その理由が認知度、理解度の低さであると指摘します。
1杯500円のコーヒーのうち、90%がカフェや小売業者に、7%が地元の輸出業者や貿易会社。コーヒー農園には1〜3%しか還元されないという現実についても紹介されました。
その上で自分にできることとして、目の前のお客さまに正しい情報を伝え、生産者や販売者の思いを伝えることが大切。そして、今年のテーマに立ち返り、「適正価格で販売すること」と再度締めくくりました。
池田大輝(ゲシャリーコーヒー 日比谷店)
3人目は、普段はゲシャリーコーヒー 日比谷店でバリスタとして店頭に立っているという池田さん。まずは、ウェルカムドリンクの抽出からプレゼンをスタート。
「香りを最大限に!」というコンセプトに選んだのは、ケニアとエチオピアのコーヒーのブレンドに加えて、なんと静岡/天龍の香駿という煎茶。シトラスやカモミールのフレーバーに、出身地である静岡県の名産である煎茶の爽やかさを付け加えたアイスドリンクとしました。
テーマに対しては「焙煎士と企業とのコラボをしませんか?」と提案。コーヒー業界は地球環境への配慮、生産者の豊かな生活というサステナビリティに対してアプローチしているとしながらも、ショップの店頭に立つ自分がお客さまとサステナビリティなどについてお話しすることはなく、「お客さまに伝わっていない」と、率直な体験を吐露。
その上で、一般企業によるサステナブルなイベントの商品企画・セミナーに対して、コーヒーの味の追求や知識の提供といった強みを活かして、焙煎士と企業のコラボによりサステナブルを広めたい、という思いを披露しました。
細井洸希(スペシャルティコーヒー蒼)
高校時代に甲子園を目指していたという細井さんは、仲間と一緒に切磋琢磨したという自身の経験を振り返りつつ、昨年決勝で負けてしまったことの経験不足、知識不足だったと告白。持ち前の負けん気から焙煎の再構築に挑み、決勝で知り合った仲間にもアドバイスを聞くなどして、今年も優勝を目指してきました。
ウェルカムドリンクには、ニカラグア・アナエロビックナチュラルの果実味の甘さや質感と、パナマゲイシャの華やかで心地よい香りをブレンドし、焙煎の狙いや抽出方法をじっくり時間をかけて紹介。コーヒーを美味しく淹れるコツは「コーヒーを淹れる自分に酔うこと」と、30秒間無言で抽出に集中する時間を設けるなど、これまでの参加者と異なる演出も取り入れていました。
今年のテーマへの自身の考えは「ロースター同士のつながりやコミュニティをつくっていくこと。お店を続けること」。焙煎のノウハウや焙煎機の購入もできるようになり、カフェの店舗数が年々増えている一方で、カフェの倒産数も2023年の半年だけで前年以上と増えている現実を突きつけます。
倒産が多い理由として、自身の経験から経験不足、知識不足があるとし、そのためにロースター同士の横のつながりを増やすことで、互いの知識を供給し、コーヒーの品質向上につなげること、そのためにロースター大会を開催し、若手の技術や知識を伸ばしていきたいと締めくくりました。
西川嘉一(セントーンコーヒー)
会社員を続けながら、独立を目指し35歳という今年が最後の挑戦となった西川さんは、自身の趣味であるプロレスの魅力や、コーヒーと出会ったきっかけからプレゼンをスタート。プロレスのマスクをかぶってコーヒーを抽出していた経験や、コーヒーに出会ったきっかけである奥様とのエピソードなどを披露しました。
ウェルカムドリンクは、好きな道具でコーヒーを淹れる楽しさを伝えながら、誰でも簡単においしく淹れられるセントーン式ハンドドリップのレシピに沿って抽出。豆はケニヤ75%、ブラジル25%のブレンドで、温かい時も冷めた時も美味しく、酸味が苦手な人でも飲めるバランスの良さを目指しました。
今年のテーマに対しては、地方で地に足をつけたロースターとしてできることを前提として、「自分のお店をコミュニティの拠点にして、コーヒー好きを増やし、地元にコーヒー文化を根付かせること」を挙げています。
地方の人口減少によるお客さまの減少などの課題も掲げつつ、競合が少ない、家賃などが低い、地元のつながりを活かせるといったメリットも挙げています。コーヒーカスの二次利用や空き容器などを使ったエコな取り組みも進めているとのこと。
会社員をしながら自分の店を持ちたいという夢をかなえるために、たくさんの方の協力への感謝、コーヒーによって得られたことを語って締めくくりました。
立野慶太(THE ROASTERS)
現在20歳で、和歌山のTHE ROASTERS で焙煎を学んでいるという立野さんは、焙煎を始めたのも今年からという今大会最年少のファイナリストです。
冒頭では、高校卒業からTHE ROASTERSと出会い、ロースターを志すまでの自身の歩みを紹介。農家だった両親が営むフルーツパーラーを手伝う中でTHE ROASTERSに出会い、苦い飲み物という従来のイメージを覆す出会いに驚きます。焙煎を始めたのは今年の4月、手回し焙煎から始めたそうです。
ただ、若手焙煎士の大会ということで「1CCC」への参加を決めてからは、何も知らないことを思い知らされる数カ月になったとのこと。SDGs、サステナビリティ、サプライチェーン、コーヒー生産者や従事者の現実を知ったり、八百屋を営む父から聞いた農業の技術の大切さ、継承することの大切さ、生産者の存在などを、コーヒーや焙煎とも重ね合わせていきました。
そんな中で、今年のテーマについて立野さんが考えたのは、等身大の「僕がこれからできること」。
生産者や産地訪問をして得た情報を伝えることが持続的なコーヒーのためになるのか、という疑問から、ロースターという立場で消費者とバイヤーとの関係を深めていくこと、豆が自分の手に届くまでに関わった人のことをもっと深く考えることなどを挙げました。
また、ロースターという立場から「サプライチェーンを輪に変える」と提案。コーヒー業界を取り巻く生産者、組合、輸出業者、バイヤー、消費者、そしてロースターというつながりの他に、今の時代だからこそ直接つながれるSNS、メディア、掲示板のような仕組みで意見を交わせるアイデアを、地元のロースター仲間とも話し合っているそうです。
決勝ステージ終了後は、ファイナリストがドリンクを提供する「バリスタ&ロースター パーティ」を実施。そして、20時頃に「1CCC 2024」の優勝者がいよいよ決定します。
1CCC 2024 決勝概要
■決勝ルール
・制限時間(20分間)にテーマに沿ったプレゼンテーションとウェルカムドリンクの作成を行う
・提供するコーヒードリンクの種類は問わない(アルコールは不可)
・ブレンド豆にはORIGIN COUTRIES提供の生豆50%以上を含めば、自身の豆も使用可能
・当日はドリンク作成、提供のさぽーととして 最大1名の補助人員を手配可能
・審査はジャッジ4名が各50点ずつ、200点満点で行う
・評価項目9のみ、全競技者終了後に評価する(9のみ10点満点)
■評価項目
(1)提供されたドリンクはプレゼンテーションとともに楽しめたか
(2)提供されたドリンクの完成度はどうだったか
(3)競技者自身のストーリーがプレゼンテーションに織り込まれているか
(4)そのストーリーに共感できたか
(5)競技者のコーヒー、それを取り巻く環境において、知識が十分と感じられたか
(6)競技者の伝えたいことやその周辺課題に対するリサーチが十分であるか
(7)プレゼンテーションに創造性やオリジナリティは感じられるか
(8)競技者のこれからのアイデアの説得力、実現可能性は高いか
(9)プレゼンテーション全体を通しての総合評価&この競技者を応援したいか
※(1)〜(8)は5点満点、(9)は10点満点、合計50点
■決勝審査員
室本寿和(STANDART JAPAN 編集長)
潮崎真惟子(フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長)
小坂田祐哉(Raw Sugar Roast 共同代表/ヘッドロースター)
浜名芳輝(味の素AGF/Qグレーダー)