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韓国と日本の似て非なるコーヒートレンド 〜Prism Coffee Works チョ・ヨンジュン氏インタビュー


日本にとって韓国といえば、最も近い外国のひとつ。食文化は互いにかなり独特な進化を遂げてきたが、味覚の共通点は多く、どちらの食文化もそれほど違和感なく楽しめる素地はある。

ただ、韓国のコーヒー文化、特にカフェ文化については、ここ20年ほどで急速に普及してきた、比較的新しい文化といわれている。クリーム入りの甘いコーヒーを提供するカフェからスペシャルティコーヒーまでさまざまだが、ベースはエスプレッソ。ブラックコーヒーはドリップではなくアメリカーノが基本だ。

そんな韓国のスペシャルティコーヒー業界を牽引し、世界中のコーヒー豆を韓国だけでなくアジアに広めている仕掛け人のひとりが、Prism Coffee Worksのチョ・ヨンジュンさん(조영준。Youngjun Cho)。単なるコーヒーショップ・ロースタリー(焙煎所)ではなく、コーヒーセミナーを主な事業としているのが特徴で、2024年5月にはチョさんが開催に尽力し、スペシャルティコーヒーの国際見本市「World of coffee 2024 Busan」が韓国・釜山で開催された。

日本にもたびたび来日しており、日本語も堪能。CROWD ROASTERが掲げる焙煎士にフォーカスしたサービスという点にも共感していただき、交流を深めている。

今回はそんなチョさんだからこそ知る、韓国やアジアのコーヒー事情、日本と韓国の違い、これからのコーヒーのトレンド予測などをうかがった。

“逃げ道”だったコーヒーを仕事に


──そもそもチョさんのコーヒーとの出会い、特にスペシャルティコーヒーとの出会いはどういうものだったんでしょうか?

チョ:元々僕はコーヒー業界の人間ではなく、皆さんと同じくIT関係の仕事をするエージェンシーだったんです。政府のウェブサイトを作ったり、フィルムフェスティバルのウェブシステムを作ったり、デザイン、バックエンド、フロントエンドなどオールラウンドにやっていました。

それらをやりながら、唯一の逃げ道がコーヒーだったんですよ。

──コーヒーが逃げ道?

チョ:皆さんもわかりますよね。コンピューターの前だけに一日中座っていると、ちょっと自分が誰なのかわからなくなるみたいな(笑)。その頃に趣味でコーヒーに興味を持ち始めて、休み時間にハンドドリップで淹れていたんです。

ある時、「もうこの仕事やりたくないな、次はなにをしよう?」と考えていて、「じゃあ、次は僕が好きな仕事をしてみよう」と始めたのがコーヒーなんです。趣味が仕事になったって感じですね。

──コーヒーの仕事として最初にされたのはバリスタですか?

チョ:いえ、コーヒー関係のスタートアップを作りました。「Cropster」という焙煎モニタリングのアプリケーションがありますが、それに似たソリューションの会社を立ち上げたんです。

ただ、ローンチして韓国のカフェショーに持っていったら、ほぼ同じ時期に「Cropster」自身が韓国でローンチしていてあちらの方が早いし、相手にならないとすぐにやめました。ダメなものは引っ張っちゃダメですから。

その後は、コーヒー関係の家具を作ったり、コーヒーバーを作ったり、教育事業も始めました。一般的なコーヒーのワークショップだと「バリスタ何級」とかですが、実際に仕事をする時にはあまり役立たない。なので、僕が学ぶ時に「こんなものがあったらいいな」と思ったもの、テイスティング、エスプレッソの淹れ方などもやっています。

この教育事業は今でも続いていて、たとえば、今となっては当たり前ですが、10年前から当時誰もしていなかった“水”の話もしていました。そういった本質的にコーヒーに必要な知識をずっと探求してきたんです。
Prism Coffee Worksで開催しているセミナー

また当時は、ただ外国からエスプレッソマシンなどを輸入しているだけで、何のマーケティング活動も地域交流もありませんでした。

そのため、コーヒー業界のマーケティングエージェンシーとしての活動もはじめました。日本や海外のバリスタたちとも交流して、韓国でセミナーなどを100回以上開いたりもしてきました。

さらに、この素材でなぜこんな味を出せるのかを知りたいと思ったらやはり産地に行くしかない。それで、コロンビアなどの産地に行って精選システムを学んで、産地の人と一緒にプロセス開発などもやってきました。なぜこうなるのかが気になってしまうんです。

──コーヒーの輸入、コーヒー関連の教育事業、コーヒー関連のマーケティングが現在の主要なビジネスということですね。

チョ:そうですね。現在は農園側からプロモーションとかマーケティング協力の要請をいただき、サポートなどもしています。

トレンド周期が早く、日々変わり続ける韓国コーヒー


──チョさんから見て、韓国のコーヒー業界にはどんな特徴がありますか?

チョ:最大の特徴は、韓国マーケットはダイナミックで変化の速度も早く、幅も広いというところですね。

韓国でコーヒーが日常的に飲まれるようになってから、まだ20〜30年くらいしか経っていません。生活の中にあるというよりは、エンターテインメントなんです。

──日常というよりは、非日常の飲み物なんですね。

チョ:もちろん、日常的にもコーヒーは楽しまれているんですけど、スペシャルティコーヒーはやっぱり非日常を楽しむための飲料です。

そのため、特別なコーヒーの需要があります。だから、発酵系コーヒーとか面白い味が出るコーヒーが、韓国では流行っているんです。

ここはワインと似ています。ワインもオークチップを入れるなどいろいろなトライがされてきました。コーヒーでも、バレルエイジドコーヒー(ウイスキー樽で生豆を寝かせる製法)とか、発酵物質とかいろいろやってきました。

ただ、最近は韓国でも発酵が強すぎるものは控えめで、むしろクリーンなウォッシュトがまたブームになってきました。

だから、日本で流行っている豆をいま韓国にそのまま持ってきたとしても売れないでしょうし、韓国で流行っている豆を日本に持っていっても「これは(発酵やフレーバーが)強すぎ」と言われるでしょう。

そういう方たちは韓国の中でもいわゆるマニア層です。ホームカフェ、ホームバリスタも結構流行っていて、家にラ・マルゾッコ(エスプレッソマシン)を置く方もいるくらいですから。

──それはかなりマニアックですね。

チョ:韓国人は、ひとつのことに集中すると一気にハマるというのが特徴かもしれません。そして、中途半端にやめる人もあまりいません。おいしいコーヒーが飲みたいという要望は一緒です。だから、クオリティとエンターテインメント、2つを手に入れるのはちょっと大変です。マーケットもダイナミックなんですよ。

──実際、スペシャルティコーヒーのロースタリーはどれくらいあるんでしょうか?

チョ:日本の人口は韓国の2.5倍くらいですが、ショップの数は8000件ほどなのに対して、韓国の自家焙煎を行うロースタリーは1万件を超えています。コーヒーショップやコーヒー専門店も含めると約10万件です。

──先ほど韓国のコーヒーの歴史は30年くらいとおっしゃっていましたが、すごい勢いで拡大してきたってことですね。

チョ:それが韓国という国なんです。ヒョンデ(自動車メーカー)やサムスン(携帯電話などのメーカー)を考えたら、あの発展速度が尋常じゃないということは理解できると思います。

──30年くらい前というと、スターバックスが参入してきた時期ですね。

チョ:そうですね。スタバが最初に韓国に出店したのは、1998年くらいのこと。そこから、豆を挽いて淹れてくれる“ちょっといいコーヒー”のマーケットが開き始めました。それまでは、豆を挽いてコーヒーを淹れてくれるコーヒー専門店はほとんどなかったんですよ。

日本と韓国のコーヒーのテイストの違い


──そんな中で、チョさんは日本の焙煎士さんとかバリスタさんともお仕事をされていますが、日本と韓国のコーヒーの違いを実感されるところはありますか?

チョ:やっぱりテイスト、味の好みが違います。韓国人が日本でコーヒーを飲むと、みんなちょっと「お茶っぽい」って感じるんですよ。

──お茶、ですか?

チョ:日本のコーヒーショップって深煎りが多いですが、スペシャルティコーヒーの焙煎士はすごく浅煎りが好きですよね。それを韓国人は「お茶っぽい感じ」と捉えます。

韓国では意外と日本よりしっかり焼いた深煎りが多いんです。やっぱりロースティングスタイルとか、選ぶ豆の基準とかも結構違っていて面白いですね。

しかも、韓国で2年前に流行った豆がいま日本で流行っていたりもします。発酵系が流行ったのは韓国の方がちょっと早めでした。

──発酵系の豆を深煎りにすることもあるんですか?

チョ:その辺は焙煎士たちがいろいろトライしています。浅煎りも韓国では5年前に終わったトレンドですが、だからこそいろいろなロースティングをいま楽しめるんです。

むしろ以前は浅煎りだったこの豆を、もうちょっと焼いてみたらどうだろう? といった形で、いろいろな焙煎度をトライしているんです。

──流行が終わるということはそれが根付くということで、そのおかげですごく幅広いコーヒーが飲めるわけですね。

チョ:幅広いですね。しかも、意外と外国のコーヒー豆もあって、ニュージーランドとかオランダとかの豆を仕入れて売っている店も結構あるんです。だから、韓国国内だけでも楽しめる幅は広いと思います。

──確かに日本ではそういうお店は少ないです。例えば、発酵度合いがかなり強いコーヒーとかでも、みんなエスプレッソで飲むんですか?

チョ:韓国のコーヒーは、基本的にエスプレッソがベースで、それを薄めたアメリカーナが主流です。エスプレッソをそのまま飲むのはマニアですね。

イタリアのエスプレッソバーのようなビジネスモデルも2、3年前に結構流行ったんですよ。1杯200円くらいでパッと飲んで出ていくような、イタリアの「ワンユーロエスプレッソ」みたいな。

だから、決まってるものが韓国にはない。店にしてもコーヒーのトレンドにしてもついていくのも大変です。

──日本としても、韓国のコーヒー事情から吸収できる部分がありそうです。

チョ:そうですね。韓国と日本の間を取るくらいがいいと思います。韓国のトレンドの移り変わりは早すぎですから。

中国、台湾のコーヒー事情


──チョさんは他にも中国、台湾など東アジアのコーヒー事情にも詳しいですよね。そのあたりの国々はどうですか?

チョ:面白いのは中国ですね。日本がクリーンな甘さだとしたら、韓国はクリーンな甘さと面白さ、でも中国は“お茶で感じられない味”を望むんです。

中国ではお茶が生活の中に溶け込んでいて、お茶だけでほぼすべての味を感じられるので、お茶では決して味わえない味をコーヒーに期待しているんですよ。

だからナインティプラス(パナマ、エチオピアで先鋭的なコーヒーを生産する会社)とか高発酵コーヒーとか、いろいろ不思議な味のコーヒーが入っているんですよね。

──なるほど。

チョ:さらに面白いのが台湾マーケットです。台湾は日本に植民地化されていたこともあり、韓国と同様に日本の影響をすごく受けています。台湾はほぼ10年前の日本と考えていいと思います。

ただ、使っているコーヒーは非常に品質がいいので、中国のコーヒーテイストと日本のコーヒー文化が混ざったような印象です。今でもサイフォンを使っているお店があるんですが、使う豆はゲイシャなど高い豆をたくさん使っています。

──台湾のゲイシャを飲んだことがありますが、美味しかったです。

チョ:意外ですよね。台湾はもう自国で生産もできて、高級な豆を輸入して、これからの成長可能性が高いマーケットなんです。東南アジアでは、台湾とタイがトレンドリーダーですね。

──タイにも有名なバリスタがたくさんいますね。

チョ:タイは本当にバリスタのレベルが高いです。もうアジアのクオリティではない。暑い国だからかカクテルみたいなコーヒーがバンバン出てきて、ちょっと驚きです。日本よりいい味を作るのはうまいですよね。

クリエイティブのレベルも違います。彼らは韓国や日本よりももっと自由です。学べるものは学ぶべきですね。

──チョさん自身も、アジア全般にコーヒー事業を広げているんですよね。

チョ:そうですね。韓国だけでも日本だけでもなく、アジアのコーヒー文化をつなげたいんです。

その中で、日本のバリスタのアティチュード(姿勢)は本当に学べるものだと思います。スキルは人それぞれですが、仕事に対しての真剣さとか、どうやって接客するとか、他の国はまだ追いついていないものですね。

──日本から学べる部分もあってよかったです。

チョ:それぞれの地域が交流しなければ、ただ自分の腕に溺れるだけで発展はないですから。コーヒーに関してはすでに国境はないですから、これからもっと必須になるでしょうね。

CROWD ROASTERがコーヒー文化の交流の軸に


──最後に、CROWD ROASTERのサービスについて、率直にお聞かせください。

チョ:CROWD ROASTERみたいなプラットフォームこそ、国境のない世界の交流に対応できると思っています。

コーヒーはオンラインだけではなく、実際飲まなければ話になりませんから、言葉だけ、画面だけでは説得力がありません。

ITビジネスでサービスをローンチした時には、2〜6ヶ月くらい経たないと反応がわかりませんでした。でも、コーヒーは飲んだ瞬間に表情が変わります。それが魅力的だったんですよね。

シェフやバリスタ、ロースターもそうですが、言葉があまり必要ない、飲めばわかる。名声があったとしても、味に関してはデコレーションはできません。

CROWD ROASTERではユーザーが焙煎士に対して直接要望や感想を届けられる


──アプリを通じて、国を超えて焙煎士や豆をつなげられたら、世界がつながりますね。

チョ:国や文化は違っても、美味しい、美味しくないはみんな言えますからね。焙煎士もコーヒーも丸裸にされて、その上で評価できます。

コーヒー業界の面白いのは、一般的に競い合っている人は秘密のレシピを教えなかったりしますが、コーヒー関係者はみんな公表するところ。うちはこうやっているとか、雨の日はこうするとか。

しかも、豆でなにか気になることがあったら、農園に直接DMを送ると返事が返ってくる。コロンビア人やパナマ人から、それもとても親切に。こんなビジネスはどこにもありません。

アジアのコーヒーコミュニティを作りたい


──どの国にも特有のコーヒー文化はありますが、横につながって一緒に盛り上げられるといいですね。CROWD ROASTERも貢献したいです。

チョ:そう望んでいます。アジアは特にコーヒーのコミュニティがあまりないんです。西洋のバリスタたちはパーティーとか国を超えて集まることがあるんですけど、アジアはそれがままならないんですよ。

だから、アジアのバリスタやロースターたちを結んでいけるイベントとかプラットホームがあったらいいですよね。アジア限定のコンペティションとかも作ってもいいかもしれません。売上で評価してもいいですね。

バリスタ技術を競う世界大会「World Barista Championship」の釜山開催にもチョさんの尽力があった


──「フリーポアー・ラテアート・グランプリ」は毎年東京で開催されていますが、アジアの方もたくさんいらしてかなり活気がありました。

チョ:集まればできるんですよね。ただ、集まれるチャンスがない。たとえば、Discode(ゲームに特化したチャットサービス)などでオンライントークショーとかをやってもいいし。誰もがちょっとしたストーリーを持っているので、それを広げていきたいですし、日本の皆さんからも、もっともっと学べることもありそうです。

── ありがとうございました。

先進的で新しもの好きな韓国で培われてきたコーヒー文化、深煎りの喫茶店から独自の進化を遂げてきた日本のコーヒー文化、それぞれに特徴があり、しかもコーヒーは世界で飲み物として普及している。

世界に通用するバリスタや焙煎士も、韓国や日本から生まれているいま、アジアから世界へ──というチョさんの思いがを実現する日もそう遠いことではないだろう。

焙煎士とユーザーをつなぎ、世界の生豆を提供しているCROWD ROASTERとしても、世界進出は目標のひとつ。アジアで活躍するチョさんとも協力しながら、日本独自のコーヒー文化をアジアや世界にも広めていきたい。

さて、2024年10月9日〜11日に東京ビッグサイトで行われるスペシャルティコーヒーの展示会「SCAJ2024」では、CROWD ROASTERブースにチョさんをお迎えして、この記事のさらなる深掘りをしたトークショーを開催します!
韓国やアジアのコーヒー事情について知る貴重な機会です。
ぜひCROWD ROASTERブースにお越しください!


SCAJ2024 チョ・ヨンジュンさんスペシャルトークイベント
10月10日(木)13:30-14:00  CROWD ROASTERブース
【韓国と日本のコーヒートレンド、どう違う?】


Prism Coffee Works