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エスプレッソの歴史

ラテなどのエスプレッソドリンクを作るために必要不可欠な「エスプレッソ」。
ハンドドリップで飲むコーヒーとはまた違った魅力があります。

イタリアでは、コーヒーといえばエスプレッソを指します。出勤前にエスプレッソを飲んでから仕事に行く。それほど当たり前の文化になっている飲み物です。
アフリカで生まれたコーヒーが、イスラム圏を経由してヨーロッパに伝わり、嗜好飲料として広く飲まれるようになったのは17世紀のことですが、実はエスプレッソが飲まれるようになったのは20世紀始めと、比較的新しい飲み方なのです。

今回の記事では、そんなエスプレッソの誕生について見ていきたいと思います。
 

エスプレッソの起源:デミタスカップ

1806年、ナポレオンが敵対するイギリスへの対抗策として発布した大陸封鎖令がデミタスカップ誕生のきっかけとなりました。
これにより、植民地からの輸入品であるコーヒー豆が輸入できなくなり、ヨーロッパ大陸全土でコーヒー豆が不足する事態となりました。

カフェオーナーたちはこのコーヒー不足に悩まされる事となり、どうにかこの局面を打破しようしました。そこでローマのとあるカフェオーナーが打開策として、提供するコーヒーの量を3分の2にして価格を下げることで、コーヒー不足をなんとか乗り越えようと考えたのです。これが多くの人に受け入れられました。

その結果、小さめのカップでコーヒーを楽しむ、というスタイルが徐々に浸透し、受け入れられるようになっていき、新たな飲み方として確立されていきました。
これがデミタススタイルの起源と考えられており、フランス語で「半分」の意味の「デミ(demi)」、「カップ」の意味の「タス(tasse)」をあわせた「デミタスカップ」という言葉ができたと言われています。

エスプレッソマシンの誕生


コーヒーを抽出するのに蒸気圧を使うというアイデアは、1800年代から存在しました。今の形に近いエスプレッソマシンが開発されたのは、デミタスカップの誕生から1世紀後の1901年。抽出速度を追い求めたベゼラ社の創始者ルイジ・ベゼラによって開発されたエスプレッソマシンが起源となりました(1884年にトリノの発明家、アンジェロ・モリオンドが考案して発表したものをもとにしている)。

このエスプレッソマシンの特許を1903年に買い取ったのが、デジデリオ・パボーニ。
ドリップ式やサイフォン式とは異なり、蒸気圧で抽出し濃厚なコーヒーを淹れるエスプレッソの手法が、パボーニによって、1906年のミラノ万国博覧会で紹介されました。
これらのマシンにより、1杯ずつ注文に応じて淹れるスタイルがイタリアで広く受け入れられました。

その後、日本でもおなじみのイタリアのコーヒー豆メーカーilly社の創業者であるフランチェスコ・イリーが、1933年に現在のエスプレッソマシンの主流となっているセミオートマチック式の機材の開発に成功しました。
 
1948年にはガジア社から「ピストンレバー式」のエスプレッソマシンが登場。これによって9気圧程度の加圧が可能になり、表面の小さな泡の膜である「クレマ」ができるようになりました。ここにいたって、現在飲まれている形のエスプレッソ抽出ができるようになったのです。
 
その後の1961年、ファエマ社から電気ポンプ式のエスプレッソマシンが出現し、これが現在スタンダートとなっています。

マシンの改良とともにエスプレッソは世界中に広まり、日本でもシアトル系コーヒーショップがチェーン展開された1990年代に急速に普及。エスプレッソが一気にお馴染みのコーヒー飲料となりました。
 

エスプレッソの名前の起源と定義

Espressoという言葉には、いくつかの意味があり、絞り出すといういう意味、人のために何かを行うという意味、そして鉄道では急行の意味。これらの意味は、素早くコーヒーを淹れることのできるエスプレッソの抽出方法にピッタリと言えるのではないでしょうか。

語源については確実な説はないようですが、一般的には急行、高速から連想されて、エスプレッソといわれるようになったとされます。
ただイタリアなどでは、カフェといえばエスプレッソのことになり、わざわざエスプレッソと言うことはあまりないようです。

ちなみに、ピストンレバー式のエスプレッソマシンを発明したアキーレ・ガジアは、エスプレッソを淹れるための基本設定を定めました。
2杯用のフィルターバスケットで、コーヒーの粉14g(1杯あたり7g)、抽出量は14g。
湯温は88〜96度、抽出時間は20〜30秒、圧力は9気圧、というもの。

現在では粉量が増えたりしていますが、基本の設定は変わっておらず、これがエスプレッソの淹れ方の基本となっています。


今では当たり前のように飲んでいるエスプレッソ。
このような歴史的背景を考えながら飲むと、また一味違った楽しみ方ができるかもしれません。


2024.1.9
CROWD ROASTER