【現代のアルチザン】豆ポレポレ 仲村良行さんインタビュー
「焙煎」という技術は、とても奥が深く一朝一夕に身につくものではない。
コーヒー豆が持つポテンシャルを探り、狙った味わいと香りを引き出すためには知識も技術も必要だ。
そんな「焙煎」という技術を突き詰めた先にあるのが、「ワールドコーヒーロースティングチャンピオンシップ」(WCRC)という世界一の焙煎の腕前を競う国際大会だ。
純粋に焙煎の技術を評価するこの大会で、2018年の日本代表として挑み世界2位に輝いたのが、沖縄で「豆ポレポレ」というロースタリーを構える焙煎士、仲村良行さんだ。
ことあるごとに「自分は不器用」と語る仲村さんのコーヒー、そして焙煎との出会いは、幼少期からの数々の偶然が積み重なった末の、まさに運命だった。
ベトナムコーヒーに感じた驚き
今でこそ、日本を代表する焙煎士として名を連ねている仲村さんだが、若い頃は缶コーヒーで十分というくらい、コーヒーには無頓着だった。
「僕が若い頃の沖縄って、マクドナルドにしてもA&W(通称エンダー、沖縄のハンバーガーチェーン店)も24時間営業だったんです。中でもエンダーはコーヒーとルートビアはおかわり自由。そうすると、夜中にお金がない学生がコーヒー1杯で勉強していたり、おばちゃんが朝までおしゃべりしているというカオスな状態でしたね」
そんな時代に大学生活を送ったのち、卒業旅行としてタイからカンボジア、ベトナム、ラオスと回るアジア旅行に出る。目当ては当時打ち込んでいたビリヤードだ。
「当時、アジアはビリヤードのレベルが高くて、現地のカフェは黒板に名前を書いてドリンクを注文するとビリヤードで対戦できて、負けるまで突き放題だったんです。そこで注文したのがベトナムスタイルのコーヒー。すごく苦くて甘くて、缶コーヒーしか飲んだことがない僕はびっくりしてしまって。あれがコーヒーに興味を持ったきっかけでしたね」
「僕が若い頃の沖縄って、マクドナルドにしてもA&W(通称エンダー、沖縄のハンバーガーチェーン店)も24時間営業だったんです。中でもエンダーはコーヒーとルートビアはおかわり自由。そうすると、夜中にお金がない学生がコーヒー1杯で勉強していたり、おばちゃんが朝までおしゃべりしているというカオスな状態でしたね」
そんな時代に大学生活を送ったのち、卒業旅行としてタイからカンボジア、ベトナム、ラオスと回るアジア旅行に出る。目当ては当時打ち込んでいたビリヤードだ。
「当時、アジアはビリヤードのレベルが高くて、現地のカフェは黒板に名前を書いてドリンクを注文するとビリヤードで対戦できて、負けるまで突き放題だったんです。そこで注文したのがベトナムスタイルのコーヒー。すごく苦くて甘くて、缶コーヒーしか飲んだことがない僕はびっくりしてしまって。あれがコーヒーに興味を持ったきっかけでしたね」
帰国後、たまたま求人募集していたコーヒーショップでアルバイトを始める。その時にバリスタとしてコーヒーを淹れたのが、コーヒーに携わった出発点だった。
「当時としては珍しくエスプレッソマシンがあって、カプチーノとかを出せるコーヒー屋だったんです。なにしろ、シナモンをかけたコーヒーを『エスプレッソ』なんて言っていたような時代。本格的なコーヒーを作るのがすごく面白くて、お客さんに『おいしい』って言われてさらにのめり込みました」
コーヒー好きではなかった仲村さんだが、出したコーヒーを褒められたことに大きな喜びとやりがいを感じた。その理由は、幼少期から持ち続けてきた「不器用」というコンプレックスだったという。
「小学校1年生の時に右手を骨折して、左手で文字を書かざるをえなくなったんです。ようやく書けるようになってきた3年生くらいで、また右手に直させられて、そのせいで字は汚いし絵もうまく描けない。だから、幼少期から自分は不器用な人間だという先入観を持っていました。そんな人間がコーヒーを作っておいしいと褒められたのが本当にうれしかったし、反動も大きかったんでしょうね。『もっとおいしくしたい』『なぜおいしくなるんだろう』と、どんどん追求していきました」
そんな仲村さんが「コーヒーっておいしいんだ」と最初に感じたのは、アルバイトした店で自分で作ったダブルショットのカプチーノだった。
「すごくチョコレートっぽい甘さを感じた時に、『これを甘いと思える人ってどれくらいいるんだろう?』と思ったのが原体験でした。キャラメルカプチーノみたいな甘いコーヒーから、甘くないカプチーノを飲むようになって。あるとき、エスプレッソに負けないくらいミルクを足したらダークチョコレートみたいな甘さを感じる瞬間があったんです。そこから『ブラックも甘いんじゃないか』と甘みを感じられるようになっていきました」
独学で試行錯誤を繰り返した手焙煎
一度こだわり始めたらとことん極めたくなるという性格もあり、バリスタとしての経験を積みながらも、「コーヒーはどうやら焙煎というものがキモらしい」というところに行き着いた。
しかし、コーヒーに関する本はたくさん読み漁ったものの、どの本にも「焙煎」の方法については詳しく書かれていなかったという。
「いろいろ調べて自宅でもできそうと知り、近所の自家焙煎をやっているマスターに相談したら、焙煎用の手網を売ってくれたんです。生豆もタダでくれて、なんていい人なんだろうと思いました」
もらった豆は店で焙煎する際にはじいたカビていたりするような豆ばかりで、生まれて初めて自分で焙煎したコーヒーは、史上最高にまずかった。
「素人だから何もわからなかったんです(笑)。ただ、この時に『焙煎って難しいんだ』ということを痛感したことが、焙煎士としてのスタートでした」
焙煎技術を教えてくれるところは沖縄にはなく、本土のセミナーなどにも顔を出すようになっていく。
「でも、みんな言っていることが違うんですよね。結局はよく分かりませんでした」
しかし、コーヒーに関する本はたくさん読み漁ったものの、どの本にも「焙煎」の方法については詳しく書かれていなかったという。
「いろいろ調べて自宅でもできそうと知り、近所の自家焙煎をやっているマスターに相談したら、焙煎用の手網を売ってくれたんです。生豆もタダでくれて、なんていい人なんだろうと思いました」
もらった豆は店で焙煎する際にはじいたカビていたりするような豆ばかりで、生まれて初めて自分で焙煎したコーヒーは、史上最高にまずかった。
「素人だから何もわからなかったんです(笑)。ただ、この時に『焙煎って難しいんだ』ということを痛感したことが、焙煎士としてのスタートでした」
焙煎技術を教えてくれるところは沖縄にはなく、本土のセミナーなどにも顔を出すようになっていく。
「でも、みんな言っていることが違うんですよね。結局はよく分かりませんでした」
焙煎機が必要だ
仲村さんは独学で、手網での焙煎を練習し続けた。少なくとも手焙煎でもおいしく焼けるという自信ができた頃、焙煎機をさわってみたくなり、購入したのがフジローヤルの1kg釜の直火式。テスト焙煎や小さな規模のロースタリーでお馴染みの小型焙煎機だ。
それからひたすら焙煎しては知り合いに配る日々。アルバイトをしながら、収入を焙煎に投資していった。まとまった資金を貯めるために季節労働に“出稼ぎ”したこともある。その時も休日はカフェを巡り、本でコーヒーの勉強を続けた。
ここまでのめり込んで焙煎技術を極めようと思い続けられたのは、最初に入ったコーヒーショップでの「コーヒーを仕事にしたい」という思いがあればこそだった。
そうして技術を身につけながら、自分の店の開業を目指す。とはいえ、手持ちの資金がなかったため、いろいろな人に頭を下げてまわった。
「もうボロカスに言われましたよ。親戚にも知り合いにも『お金を貯めていないのは自分が悪い』『それで食っていけるのか』と」
そう言われても仕方がないということは仲村さん自身が一番よくわかっていたが、それでも焙煎に対する情熱は消えることがなかった。
そしてさまざまな人たちの協力を得て、豆ポレポレを開業したのは2010年のことだった。
それからひたすら焙煎しては知り合いに配る日々。アルバイトをしながら、収入を焙煎に投資していった。まとまった資金を貯めるために季節労働に“出稼ぎ”したこともある。その時も休日はカフェを巡り、本でコーヒーの勉強を続けた。
ここまでのめり込んで焙煎技術を極めようと思い続けられたのは、最初に入ったコーヒーショップでの「コーヒーを仕事にしたい」という思いがあればこそだった。
そうして技術を身につけながら、自分の店の開業を目指す。とはいえ、手持ちの資金がなかったため、いろいろな人に頭を下げてまわった。
「もうボロカスに言われましたよ。親戚にも知り合いにも『お金を貯めていないのは自分が悪い』『それで食っていけるのか』と」
そう言われても仕方がないということは仲村さん自身が一番よくわかっていたが、それでも焙煎に対する情熱は消えることがなかった。
そしてさまざまな人たちの協力を得て、豆ポレポレを開業したのは2010年のことだった。
一人前に育ててくれたフジローヤル
オープン当初は5kg釜のフジローヤルを導入したが、バーナー本数を増やし、ファンも2系統にして連続焙煎が可能なように改造。直火式では浅煎りがどうしてもうまくいかず、自力でドラムを改良して半熱風式に変更した。さらに「輪郭がもやっとしてしまった」と感じるようになり、プロバット社の焙煎機を導入した。
とはいえ、当初フジローヤルを使っていたことは、今のレベルになるために意義があったと振り返る。
「今考えるとただの知識不足で、今の自分なら直火の焙煎機でもうまく焼けます。10年前の自分に『焙煎機のせいじゃないからな』と言ってやりたいです(笑)。フジローヤルは外気温とかちょっとした違いで仕上がりがぶれやすくて、沖縄だと台風とかが近づくとだいぶ変わってしまうんですよね。焦げやすいとかのネガティブな面は、そうならないように焙煎士がコントロールすればいい。
この焙煎機に揉まれたおかげで、そういうことを考えるきっかけになって、上達できたのだと思います。フジローヤルに慣れると、(大会などで使用する)海外の蓄熱性の高い焙煎機であまりぶれることはないです」
世界一を目指す理由は自らの学びのため
いい焙煎機を導入して店舗を構えたからといって、ある日突然焙煎技術が向上するわけではない。仲村さん自身も、もっと勉強したい、もっと美味しく焙煎したい、という思いは日に日に増していくが、なかなか時間が取りにくかった。そこで挑戦し始めたのが、「ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ」(JCRC)だ。
「何もしないと時間だけが流れていってしまいますよね。でも、大会に出るとなればどうやっても勉強する時間を作らなければならない。僕はそれほど自分に厳しくない人間なので、大会の準備のために『やらなきゃ』と焙煎と向き合う時間を作ることが必要だったんです」
初めて出場した大会は20位台。だが、「結果として勉強できたのがよかったので、次も出ようと成長できた」との言葉どおり、その後も努力を積み重ね、2017年の「ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ」で、ついに日本一の座を獲得。日本代表として出場した2018年の世界大会では2位を獲得した。
それにとどまらず、2022年の日本大会では見事2度目の日本一に輝いた。そして2023年に開催される世界大会に向けて腕を磨く日々を送っている。
「2018年の世界大会では、確信的に『これでいける』と思ったんですけどダメだったんです。日本大会でも僅差での優勝、世界大会でも僅差での2位でした。前回とは違うアプローチを探りながら大会に向けて勉強しています」
「何もしないと時間だけが流れていってしまいますよね。でも、大会に出るとなればどうやっても勉強する時間を作らなければならない。僕はそれほど自分に厳しくない人間なので、大会の準備のために『やらなきゃ』と焙煎と向き合う時間を作ることが必要だったんです」
初めて出場した大会は20位台。だが、「結果として勉強できたのがよかったので、次も出ようと成長できた」との言葉どおり、その後も努力を積み重ね、2017年の「ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ」で、ついに日本一の座を獲得。日本代表として出場した2018年の世界大会では2位を獲得した。
それにとどまらず、2022年の日本大会では見事2度目の日本一に輝いた。そして2023年に開催される世界大会に向けて腕を磨く日々を送っている。
「2018年の世界大会では、確信的に『これでいける』と思ったんですけどダメだったんです。日本大会でも僅差での優勝、世界大会でも僅差での2位でした。前回とは違うアプローチを探りながら大会に向けて勉強しています」
甘くて口当たりのいい最良のコーヒーを目指して
仲村さんが理想とするコーヒーを一言で表すと、口当たりのいい甘いコーヒー。焙煎によって現れるネガティブな部分は出さないように気を使っている。
「もともとそういうコーヒーが好きでもありましたし、大会ではネガティブな部分を非常に細かく見られますから」
コーヒーのおいしさを決めるのは、さまざまな要素があると考えている。
「誰と飲むか、どこで飲むかもおいしさには大きくかかわってくると思います。でも客観的に見ておいしいという部分は焙煎によって作れる。最も気をつけているポイントはバランス。そして、しっかりディベロップさせる焙煎をするということです」
それは、毎回ほぼ初めて向き合うことになるCROWD ROASTERの豆でも同様だという。
「CROWD ROASTERで依頼される焙煎は、自分が焙煎したいと思った豆ではありません。だからこそ、やっていて発見があると楽しいと思えますし、消費者の方も楽しんでいると思うんです。僕自身もそう感じてきました。
同じ豆で違う焙煎士が焙煎したコーヒーを飲み比べしたりできますし、CRでは豆を見るにしても焙煎士を見るにしても、ひとつの店舗ではできないことをやってくれています。そういういろいろなコーヒーの楽しみ方が広がってくれたらと思っています」
仲村さんの話ぶりからは、自らの知識と技術を追求していながら、名誉や利益を目的としている印象がまったくない。コーヒーをよく知らない頃に出会った「焙煎」という行為自体を純粋に楽しんでいることが、わずかに伝わる沖縄特有のイントネーションの中からも香ってくる。
「仕事にすると厳しい部分もありますけど、それを乗り越えるとコーヒーの焙煎は本当に楽しい仕事です」
「もともとそういうコーヒーが好きでもありましたし、大会ではネガティブな部分を非常に細かく見られますから」
コーヒーのおいしさを決めるのは、さまざまな要素があると考えている。
「誰と飲むか、どこで飲むかもおいしさには大きくかかわってくると思います。でも客観的に見ておいしいという部分は焙煎によって作れる。最も気をつけているポイントはバランス。そして、しっかりディベロップさせる焙煎をするということです」
それは、毎回ほぼ初めて向き合うことになるCROWD ROASTERの豆でも同様だという。
「CROWD ROASTERで依頼される焙煎は、自分が焙煎したいと思った豆ではありません。だからこそ、やっていて発見があると楽しいと思えますし、消費者の方も楽しんでいると思うんです。僕自身もそう感じてきました。
同じ豆で違う焙煎士が焙煎したコーヒーを飲み比べしたりできますし、CRでは豆を見るにしても焙煎士を見るにしても、ひとつの店舗ではできないことをやってくれています。そういういろいろなコーヒーの楽しみ方が広がってくれたらと思っています」
仲村さんの話ぶりからは、自らの知識と技術を追求していながら、名誉や利益を目的としている印象がまったくない。コーヒーをよく知らない頃に出会った「焙煎」という行為自体を純粋に楽しんでいることが、わずかに伝わる沖縄特有のイントネーションの中からも香ってくる。
「仕事にすると厳しい部分もありますけど、それを乗り越えるとコーヒーの焙煎は本当に楽しい仕事です」
CROWD ROASTER では仲村さんの店舗「豆ポレポレ」では扱っていない、さまざまなコーヒー豆をラインナップ。
仲村さんに焙煎依頼をして、ここだけで楽しめるコーヒーを手に入れよう。
Shop Information
豆ポレポレ
沖縄県沖縄市高原6-13-8 1F
OPEN : 10:30〜18:30
CLOSE : Thu,Sun
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豆ポレポレ
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OPEN : 10:30〜18:30
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