
パナマは小さな国土ながら、世界的に高く評価されるスペシャルティコーヒーを生産している注目の産地です。
特にゲイシャ種の成功により国際的な名声を得たパナマ。この記事では、パナマゲイシャのコーヒー産地として特に重要な「ボケテ」と「ボルカン」の2つの地域に焦点を当て、それぞれの特徴を紹介します。どちらもスペシャルティコーヒーを特徴づける「テロワール」を体感できる、パナマの魅力的なコーヒー産地です。
バル火山の東斜面に位置するボケテは、フローラルな香りと明るい酸味が特徴で、エスメラルダ農園をはじめとする世界的に有名な農園が集まります。
一方、バル火山の西斜面に広がるボルカン地区は、フルーティな風味と重厚感のあるボディが魅力で、ハートマン農園などが伝統と革新を融合させたコーヒー作りを行っています。
同じバル火山の斜面にありながら、地理的位置や降雨パターンの違いから生まれる風味の個性、それぞれの地域の取り組みを紹介し、パナマコーヒーの奥深さを探ります。
コーヒー栽培に適したバル火山の周辺地域

パナマ共和国は、南北アメリカを繋ぐ中央アメリカに位置する国。西はコスタリカ、東はコロンビアに接しています。パナマの面積は約7万5千キロ平方メートル。パナマといえば、パナマ運河が有名ですが、そのほかにも船舶、鉱業、観光業なども主要産業となっており、農産物ではコーヒーが主要な位置をしめています。
北米大陸と南米大陸を繋ぐ地峡国で、国土が細長く横に広がっています。この地形的特徴によって、カリブ海と太平洋の両方の影響を受け、独特のマイクロクライメイト(微気候)が発生します。気候は高温多湿の亜熱帯、雨季は5月から12月、乾季は1月から4月で、気候は地域ごとに異なります。
国土の8割は山岳地帯で、残りの多くは熱帯雨林が広がっています。パナマ西部、コスタリカとの国境に近いチリキ県にあるバル火山が最高峰です。
気候は熱帯性で、このバル火山周辺は、火山性の肥沃な土壌を持ち、寒暖差がしっかりあることから、コーヒー栽培に適した環境となっています。
気候は熱帯性で、このバル火山周辺は、火山性の肥沃な土壌を持ち、寒暖差がしっかりあることから、コーヒー栽培に適した環境となっています。
バル火山は、16世紀に噴火した成層火山です。 噴火によって周辺の土壌にテフラが散らばったことにより、火山周辺は栄養分が豊富な肥沃な土壌で、コーヒー栽培に理想的な環境となっています。パナマの高品質なアラビカ種は、このバル火山を挟んで東西に位置するチリキ県のボケテ地方、ボルカン地方でおもに生産されています。
ちなみにパナマで栽培されているコーヒーの約70%から80%がアラビカ種で、残りの約20%から30%はロブスタ種です。チリキ県で栽培されるアラビカ種は主に輸出されますが、パナマの低地で栽培されるロブスタ種は主に地元で消費されます。ロブスタ種は主に、コクレ県、パナマ・オエステ県、コロン県などなどの低地で生産されています。
パナマゲイシャを代表するテロワール「ボケテ」

パナマでコーヒーの栽培が始まったのは中央アメリカの中では遅く、1870年〜1890年頃、パナマの西側にあるチリキ県のボケテ地区で始まりました。
このボケテ地区は、バル火山の東斜面に位置しています。バホ・ボケテ、アルト・ボケテ、カルデラ、ハラミージョ、パルミラといった地域にさらに細かく分かれています。南側は谷になっており、西にバル火山、北側にはタマランカ山脈が走っています。
ボケテは、標高1,200m〜2,100mの高地で、5月から12月は主に太平洋側からの降雨、12月から3月は主に大西洋側からの降雨があります。気温は10℃から26℃、より乾燥した場所から、多くの降雨がある非常に湿ったマイクロクライメイトを持つ場所まであります。
大西洋側からの霧状の雨は「バハレケ」として知られており、北部の土地では年間を通してこの雨に包まれます。
ボケテは、標高1,200m〜2,100mの高地で、5月から12月は主に太平洋側からの降雨、12月から3月は主に大西洋側からの降雨があります。気温は10℃から26℃、より乾燥した場所から、多くの降雨がある非常に湿ったマイクロクライメイトを持つ場所まであります。
大西洋側からの霧状の雨は「バハレケ」として知られており、北部の土地では年間を通してこの雨に包まれます。
太平洋側からの降雨は、パルミラ、ハラミージョなどの南部の土地に影響を与え、中部では両方の降雨の影響を受けます。
このように土壌に恵まれ、しかも狭い地域で気候が変化し、その土地の個性、つまりテロワールを感じさせるコーヒーを生産するボケテは、パナマのスペシャルティコーヒー第一の産地です。
ボケテ地区の代表的な特徴として、フローラルな香りと明るい酸味、バランスの取れた甘みが挙げられます。特に水洗処理によるクリーンな味わいは、ボケテ産コーヒーの魅力のひとつです。複雑で繊細な風味構成を持ち、標高が高くなるほど、より洗練された風味プロフィールが現れる傾向があります。
この地区の代表的な農園には以下があります。
エスメラルダ農園(Hacienda La Esmeralda)
ゲイシャの名を世界に広める役割を果たした農園です。エスメラルダ農園は、地域に点在する区画ごとにロットを分けて生産しており、同じゲイシャ種でも、農地の存在する場所ごとに、そのテロワールを表現する違ったフレーバーを感じられるとしています。「ベスト・オブ・パナマ」コンテストで何度も最高価格を更新し、ゲイシャ種で1ポンドあたり1,000ドル以上の競売記録を持っています。
コトワ農園(Finca Kotowa)
パナマスペシャルティコーヒー協会の会長を務めた、リカルド・コイナー氏の農園です。パナマのスペシャルティコーヒーをまさに代表する農園として、世界的な評価を得ています。地域の環境を守り、水力発電で電気を賄うなど、環境への取り組みも先進的です。
エリダ農園(Finca Elida)
1918年に設立された歴史ある農園で、現在は4代目が運営しています。標高1,700〜2,000メートルという高地で栽培される彼らのゲイシャ種は、フローラルな香りと繊細な酸味で知られています。有機栽培と環境保全にも積極的に取り組んでいます。
注目されるテロワール「ボルカン」

ボルカン地区は、パナマ西部のチリキ県に位置し、バル火山の西斜面に広がるコーヒー産地です。地名の「ボルカン(Volcán)」はスペイン語で「火山」を意味し、バル火山に由来しています。この地域にはレナシミエント(Renacimiento)エリアなどが含まれており、コスタリカとの国境にあるラ・アミスタッド国立公園に隣接しています。
ボルカン地区の標高は主に1,200〜1,800メートルで、火山性の肥沃な土壌を持ち、朝晩の寒暖差が大きいことが特徴です。エリアによって標高は600m〜2,500mと幅広く、湿度の高い熱帯から高地の温帯まで、さまざまな標高と地形が生むマイクロクライメイトにより、多様なコーヒーが生産されています。
ボルカン産コーヒーの風味特性としては、フルーティな酸味とバランスの取れた甘み、柑橘系やベリー系の風味ノートが特徴的です。ボケテと比較すると、やや果実味が強調される傾向があり、ボディの厚みも特徴として挙げられます。栽培品種としては、ティピカ、カツーラ、ゲイシャなどの高品質品種が中心です。
この地域では、レナシミエント生産者協会が輸出の促進、コーヒー生産と価格の改善、環境保全、小規模生産者の生活の質の向上を図っており、地域のコーヒーの価値の向上に取り組んでいます。
ボルカン地区の代表的な農園には以下があります。
ハートマン農園(Finca Hartmann)
レナシミエント地区のサンタ・クララという最も標高の高いエリアにある農園です。人里離れた山岳地帯だった場所を開拓し、現在では豊かな自然を生かしたエコツアーも行われています。近年、国際品評会「ベスト・オブ・パナマ」のゲイシャ部門でも入賞が続くハートマン家の農園は、このボルカン地区を代表する存在となっています。生物多様性の保全に力を入れており、300種以上の鳥類が確認されている自然豊かな農園です。
ジャンソン農園(Janson Coffee Farm)
クリーンで素晴らしいゲイシャを生み出すジャンソンは、パナマゲイシャを世界的に有名にした農園の一つ。1941年にスウェーデン出身のカール・ジャンソンによって創設。コーヒーを育てる土壌の養分管理から、区画ごとに隣接する天然林の生態系の維持まで、徹底的な品質管理を行っています。
アウロマール(Auromar)
アウロマールの「Finca la Aurora(アウロラ農園)」は、パナマ共和国のチリキ州カンデラの高地に位置し、標高は1,570~1,770m。農園のうち、栽培面積は3分の2にあたる14.5ヘクタール。残りは手つかずの高地熱帯林です。栽培地は、コーヒーの収穫量と森林保護のバランスを取るため、細心の注意を払って開発されました。この地域には安定した微気候があり、コーヒーチェリーは、シーズンが変わる12月から1月にかけての乾燥により湿度が下がる恩恵を十分に受け、4月中旬まで続く晴れた乾季の日差しの恩恵も受けます。限られた供給量の中で非常に複雑な味わいのコーヒー豆が生まれる結果となっています。
ボケテとボルカン、2つの産地の比較

ボケテとボルカンは距離的に近く、同じバル火山の斜面に位置していますが、それぞれ異なる特徴を持っています。まず地理的な位置としては、ボケテはバル火山の東斜面、ボルカンは西斜面に位置しています。この位置関係の違いが、風や雨の影響の差となり、風味プロフィールに微妙な違いをもたらしています。
風味特性においても両者には明確な違いがあります。一般的に、ボケテ産コーヒーはよりフローラルで複雑な風味構成が特徴で、繊細な酸味と透明感のある味わいが魅力です。一方、ボルカン産コーヒーは果実味がやや強調される傾向があり、柑橘系やベリー系のフレーバーノートとともに、やや重厚感のあるボディを持つ傾向にあります。
このような風味の違いには、降雨パターンも大きく影響しています。ボケテは東斜面に位置するため、大西洋側からの「バハレケ」と呼ばれる霧状の雨の影響を強く受けます。一方、ボルカンは太平洋側からの影響をより強く受けるため、降雨のパターンや湿度が異なり、これがコーヒーの生育環境に違いをもたらしています。
認知度の面では、ボケテはエスメラルダ農園のゲイシャ種が世界的な注目を集めたことで、より広く知られています。特に「ベスト・オブ・パナマ」コンテストでの成功により、ボケテの名は世界中のコーヒー愛好家に浸透しました。一方、ボルカン(特にレナシミエント地区)は近年注目度が高まってきており、ハートマン家をはじめとする生産者の取り組みにより、今後さらなる発展が期待されています。
栽培や精製のアプローチにも違いが見られます。両地域とも高品質なスペシャルティコーヒーの生産に力を入れていますが、ボケテでは伝統的な水洗処理が主流である一方、ボルカンではナチュラルやハニープロセスなど多様な精製方法の実験が活発に行われている傾向があります。この多様性が、それぞれの地域の個性をさらに際立たせているのです。
ゲイシャだけではないパナマの魅力

エスメラルダ農園で、再発見された後のゲイシャの快進撃は、今に至るまで続いています。ゲイシャフレーバーとも称される、ユニークで高貴なフレーバーはコーヒー業界に衝撃を与え、瞬く間に世界中で高く評価されることとなりました。
しかし、パナマコーヒーの魅力はゲイシャだけではありません。地域の特性としてさまざまな気候が存在し、テロワールを感じることのできる品質の高いコーヒーを生産しているパナマ。ぜひその魅力を味わってみてください。
2025.4.4
CROWD ROASTER