STORY

なぜ多くの焙煎士がProbatを選ぶのか〜DKSHに聞くJapanese Probat Story

コーヒーの焙煎機にはさまざまな種類がありますが、CROWD ROASTERの参加焙煎士に人気なのが、ドイツで誕生したメーカー「Probat」(プロバット)の焙煎機です。
 
Probatがこれほどまでに日本の焙煎士に選ばれている理由はどこにあるのでしょうか。
そして、Probatならではの味わいの特徴とはなんなのか。
 
今回は、日本国内でProbatを取り扱っているDKSHマーケットエクスパンションサービスジャパン株式会社の長谷川毅さんと奈良優さんに、「Probatの秘密」と題してお話をうかがいました。
 
コーヒーにおける主役のひとつ、焙煎機にフォーカスを当ててみたいと思います。
 
プロバット社製品の国内総代理店を務めるDKSHマーケットエクスパンションサービスジャパン株式会社のテクノロジー事業部門 産業機械部の長谷川毅さんと奈良優さん。焙煎機だけでなくエスプレッソマシンやパン・菓子の製造機なども扱っている

焙煎機専門メーカーとして産声を上げたProbat

1868年にドイツで生まれたProbatは、コーヒーの焙煎機メーカーとして設立されました。当時は大量にコーヒーを製造するための大型焙煎機がメインで、革新的なエメリッヒ球状焙煎機が誕生したのは1870年のこと。1884年には回転するドラムで焙煎する「Kaffeeschnellröster(急速コーヒー焙煎機)で特許を取得。「Probat」というブランドが誕生したのは1920年と、比較的最近のことでした。
 
1870年に誕生した球状焙煎機。高品質なコーヒーを大量に作るために貢献した
 
しかし、第一次世界大戦と世界恐慌により、Probatは厳しい状況に直面します。業務の効率化を進めるなどして耐え忍んだProbatは、1949年についに社名を「エメリッヒ機械工場」から「Probat」に変更します。そこからもProbatは進化の手綱を緩めず、遠心焙煎機などを開発。2018年には創業150周年を祝い、2022年には二酸化炭素を排出しない業界初の水素焙煎機も生み出しました。
 
特にプロバットの特許として有名なのが、半熱風式の焙煎釜に風を送る心臓部とも言える羽根の形状です。
 
「この技術は販売パートナーでもあるDKSHの私たちにも、なかなか教えてもらえないんです。他社がProbatの焙煎機の真似をして同じような設計をしても、やはり仕上がりは違います。ユーザーの中でもその設計と性能が支持されてきたことは紛れもない事実です」
 
驚きなのは、機械としての堅牢さはもちろん、DKSHジャパンが今もなお50年以上前に納品したショップロースターをメンテナンスし、使用可能にしているということです。
 
「私たちは日本のProbat代理店として、Probatの技術のバックボーンを理解し、メンテナンスなど長く続くビジネスを行っていますが、それはブランド化という意味でも重要です。機械メーカーとして50年も経過したらフォローできないことも多いと思います。ProbatとDKSHジャパンが長年実績を積み重ねてきたところも、日本でこれだけProbatが多くの焙煎士さんに支持されている理由かもしれません」

あらゆる電子制御が可能になった最新のProbatone タイプ3

日本で愛用されているProbatのショップロースターは、「Probatone」(プロバトーン)と呼ばれるモデル。サイズ展開はバッチサイズ1kg〜30kgまで、4種類のモデル(P01、P05、P12、P25)が用意されています。
 
その現行型であり最新のモデルは、基本設計はそのままに、よりきめ細やかな制御が可能になったタイプ3と呼ばれるモデルです。
Probatの最新モデル「Probatone P05 タイプ3」
 
「Probatの焙煎機は初代Probatoneから始まり、2代目からは『タイプ2』という呼び方がされるようになりました。最新の『タイプ3』での進化ポイントは、完全なデジタル制御化と、最小バッチ容量の拡大です。
 
「Cropstar」(クロップスター)という焙煎制御ソフトウェアの開発元と協力して、出荷時点でProbatオリジナルのソフトウェアを組み込むことで、今までデータ化しづらかった焙煎中の状態や温度などをすべてデジタル化できるようになりました。また、オプションで排熱温度やインバーターでドラムの回転数を変えるなど、いろいろなことが可能になっています」
 
「Cropstar」は月額利用料で使えるアプリとしてタイプ2でも利用できたが、タイプ3では標準機能になっている
 
 
「タイプ3もデザインは大きくは変わりませんが、鉄の武骨な感じはより強調されたかもしれません。デジタル制御で1%刻みでガスの量を調節できますし、排気温度も全部測れます。最新のProbatが一番使いやすく、焙煎士が狙う焙煎度合いの再現性も高いです。
 
さらに、制御を細かくできたことで、焙煎容量(バッチサイズ)の守備範囲も広がりました。最低焙煎量はP01が0.8kg、P05・P12・P25が1kgからとなり、もともと最大焙煎量を示していた製品名の数値を超えて、それぞれ1.2kg、6kg、15kg、30kgまで焙煎可能になっています。
 
もうひとつ、タイプ3ではボディのカラーも選択できるようにしました。色も商品サイトでシミュレーションできますので、ぜひ確かめてみてください」
 
Probatone タイプ3では多彩なカラーが選択可能となった(国内の選択可能カラーは限定される予定)

Probatがマイクロロースタリーに人気な理由

パートナーであるDKSHから見たProbatの魅力をうかがうと、長谷川さんはマイクロロースタリーも多い日本でも評価されている、「ワンオペで連続焙煎できること」を挙げてくれました。
 
「昔は日本でProbatというと、大手コーヒーブランドのプラントが主だったんです。そこから、徐々にコーヒーショップのようなマイクロロースタリーでも使われるようになっていきました。
 
中小のコーヒーショップの中には、店主自身が焙煎して抽出しているお店もあります。そんなお店でも3〜4バッチも焙煎するとチャフが溜まっていき、連続焙煎する時には取り除かなければいけません。他社の焙煎機では機械を止めて取り除く必要があるのですが、Probatはひとりでも取り除けるようなきめ細やかな改良が施されてきました。この機能はグローバルでも同様です」
 
こうした機能改善の要望は、世界各国の焙煎のプロから直接意見を聞きながら行われてきました。
 
「Probatユーザーには、世界各国に有名な焙煎士のユーザーがいます。その人たちを何十人と集めて、どんな焙煎機が焙煎士にとって扱いやすいのかをきめ細かく新製品に落とし込んでいるんです。
 
たとえば、豆を投入する部分はオープンにすれば常時投入され、鉄のフタの重みでスライドして勝手に締まります。日本メーカーだとここにフックをつけたり、ずっと押さえていなくてもいいように部品を追加したりすると思います。でもProbatではそれを素材の重みのみで実現しているわけです。
 
これは、なるべくパーツを省略し、メンテナンスフリーにしたいという思想なんです。そしてそれは、手回しで焙煎していた時代から百何十年も変わらない部分でもあります」

Probatだからこそ再現できる味

Probatには機械的な特徴もたくさんありますが、コーヒー好きな読者にとって最も重要なのはやはり、どんなコーヒーに仕上がるか。長谷川さんが以前、Probatと他社の焙煎機の両方をお使いの焙煎士さんに聞いたところ、「Probatで焙煎すると1カ月程度経ってもアロマが抜けにくい」と言われたそうです。
 
「豆の中までしっかり熱風が当たっているからではないか、と話していました。Probatは7:3で熱風の比率が高い半熱風式で、他社の焙煎機は熱風式だったのですが、やはり違いを感じられたようです。
 
実際に私も、スペシャルティコーヒーの豆を比較して飲んでみたのですが、他社で焙煎したものは酸味が強すぎて、1週間以内でないと飲めないような印象で、焙煎士自身も意図した焙煎ではなくなってしまったと話していました。コーヒーには消費期限はありませんが、香りが飛んでしまって酸味だけが際立ってしまっているようなスペシャルティコーヒーもよく聞きます」
 
とびっきりの美味しさを届けるために、最高のコーヒーを短期間で楽しんでほしいという考え方もあるでしょう。しかし、焙煎士の理想をいかに再現できるか、その懐の深さという意味で、Probatの扱いやすさと再現度の高さが、多くの焙煎士から支持されているのかもしれません。

時代の変化にも対応できるProbat

実はDKSHがProbatを扱うようになったのは50年ほど前から。当時のDKSHは大規模なプラント向けの販売・サポートがメインで、ショップ向けの焙煎機にはあまり注力していませんでした。そこで、長谷川さんが担当し始めた頃から、エンジニアの体制を変えていきました。
 
「焙煎機の修理サポートなどができる技術の人間は、もともとのエンジニア10人中2、3人しかいなかったのですが、10人全員がショップロースターに対応できるような体制にしていきました。そうやって少しずつ焙煎機が売れるようになっていきました。
 
その初期のProbatユーザーが、日本でProbatを最初に導入してくださったコーヒーショップの方々で、彼らから技術を学んだ次の世代が、いまCROWD ROASTERでも活躍されているProbatユーザーの焙煎士の方々なんです」
 
伝統的な焙煎方式にデジタル制御を導入したProbatone タイプ3ですが、焙煎という概念も少しずつ変わってきていると、長谷川さんは語ります。
 
「焙煎士って職人かたぎの方が多くて、昔は『この豆はこう焼くんだ』ということも多かったと思います。ただ、最近は多様化しています。お客様も味の違いがわかってきていて、『この豆をあえてこういう焼き方にするのが僕は好き』というような、自分なりの主張をしている焙煎士もいると思うんです。
 
そして今後は、お客さまとの会話を通じて『この人はこんな焙煎を好んでいるんだろうな』といったことを察知して焙煎できる人が出てくるんじゃないかと思っています。
 
焼き方もそれぞれ違うし、思惑があって焙煎していると思うんですけど、それがいろいろな味として変化していく。再現性の高いProbatを使って、そういう楽しみ方を提案できる人が、今後増えていくのかなと思います」
 
焙煎の正解はひとつだけではありません。以前は大手コーヒーチェーンでバリスタとして働いていたという奈良さんは、同じ豆、同じ焙煎機でも、焙煎士が変われば味が変わるということを身をもって経験してきました。
 
「ショップで働いていた時、大きな店舗のProbatで焙煎されたコーヒーが入ってくるんですが、大量の豆を扱うので、同じ豆で同じ焼き具合のはずなのに、焙煎士によって味が全然変わるんです。調べてみたら、ひとりの焙煎士だけでは焙煎しきれなかったため、3名くらいが途中で変わったりしていました。
 
私はそれがいつも『面白い』と思っていたんです。焙煎士さんごとに豆と対話して、こういう焼き方がいい、というコーヒーを提案してきてくれるわけですよね。しかもそれぞれにいいテイストを引き出してくれていました。
 
豆の品質も毎回違うわけですが、それを合わせ込んで再現できるのも、私はProbatの強みじゃないかと思っています」

 
日本のProbatの普及の影には、献身的なサポート体制を築き上げてきたDKSHの存在がありました。そしてProbatはタイプ3という、次世代の焙煎機へと進化を遂げています。

DKSHマーケットエクスパンションサービスジャパン株式会社の長谷川毅さん、奈良優さん、貴重なお話ありがとうございました!
 
一期一会のコーヒーとの出会いを実現するCROWD ROASTERは、さまざまな要素からローストイベントを依頼することができます。コーヒー豆の銘柄、焙煎士、焙煎度に加えて、使用している焙煎機で焙煎を依頼するという楽しみ方もあります。

ぜひ焙煎機に注目して、ローストイベントに参加してみてください!

 
2024.4.25
CROWD ROASTER