STORY

青森と世界をつなぐ架け橋 橋本雄大焙煎士インタビュー


青森市の商店街にある、わずか7席だけの小さなコーヒーショップ。昔ながらの純喫茶も立ち並ぶこの街で、“コーヒーを通じてつながるコミュニティスタンド”というコンセプトでスペシャルティコーヒーを扱うロースタリーが、COFFEEMAN goodだ。

バリスタ兼焙煎士を務めているのは、青森県出身の橋本雄大さん。東京や横浜でバリスタとして活躍したのち、妻の有里さんとともにUターンした。スペシャルティコーヒーにまだ馴染みがなかった青森の人々にも親しみやすく飲みやすいコーヒーを求めて、多くのファンが足を運んでいる。

コーヒーがつないだ出会い


青森県出身の橋本さんは大学進学のために上京し、国際学を学び、社会科の教員免許を取得後、学習塾に新卒で就職する。慣れない仕事と激務に疲れた心身を癒してくれたのが、当時、東京・三軒茶屋にあった自家焙煎とサイフォン式にこだわるカフェ・オブスキュラのエチオピア ナチュラルだった。

「たまたま見つけたお店だったんですが、それまで飲んでいたコーヒーとは味が全然違って、初めておいしいと思えたコーヒーでした。青森にいた頃は叔母がキリマンジャロとかブルーマウンテンといった豆をよく買ってきて、自分でブレンドしたりもしていましたが、砂糖とミルクは欠かせなかったんです」

当時としてはまだ珍しかったスペシャルティコーヒーに触れたことをきっかけに、コーヒーにはまっていった橋本さん。学習塾の仕事が夜間中心だったこともあって、東京近郊の200件以上のカフェを巡った。

「コーヒー関連の雑誌を買い漁っては、時間のある昼間や休日にカフェを巡って、コーヒーの知識や違いを知っていきました。ある店でエチオピアを見つけて飲んでみたら、同じ豆なのにオブスキュラとは味が全然違って。理由を聞くと『ウォッシュトとナチュラルの精選方法の違いだ』と教えていただいたりもしましたね」

専門店に入り競技会に挑戦

本格的にコーヒーに関わる仕事をしたいと考えた橋本さん。2014年に転職先として選んだのは、ドトールコーヒーが新業態としてスタートさせたばかりの「CAFE LEXCEL」(カフェ レクセル)だった。

「スペシャルティコーヒーの専門店で、当時としてはめずらしく抽出方法をフレンチプレス、ハンドドリップ、エスプレッソと選べるお店でした。そこにバリスタとしてアルバイトで入社したんです」

ここで抽出技術を鍛えた橋本さんは、以前から興味のあった抽出の競技会「JBrC(Japan Brewers Cup)」に参戦。予選を突破して7位の成績を残し、実績を買われて正社員として登用された。

コーヒーへの情熱はとどまることなく、バリスタチャンピオンシップやエアロプレスなどの競技会にも積極的に参加。コーヒーの知識と技術を磨いていった。Japan AeroPress Championshipではファイナル進出、2位を獲得。現在も挑戦し続けている。

帰省で立ち寄った異色のコーヒースタンド

バリスタとして経験を積んでいた3年目、競技会用のパナマ エスメラルダ ゲイシャを持って実家に帰った時に、駅前の商店街にあったコーヒースタンドに立ち寄る。のちに橋本さん自身が切り盛りすることになる「COFFEEMAN good」だ。

「商店街に似つかわしくないお店だなと立ち寄ったのですが、自分もバリスタをやっていることや、カフェならではの苦労話などをして、お土産のゲイシャをプレゼントして、コーヒーの淹れ方や味の話などをしたんです」

翌日、横浜に戻ると、なんと「COFFEEMAN good」のオーナーが橋本さんに会いにやってきた。「うちで働きませんか?」と誘われたのだ。

「正直、当時はまだ地元に戻ろうという気持ちもありませんでした。ただ、お金をためて、いつかは自分の店を持ちたいという思いはあったことと、オーナーの熱意に共感してUターンすることにしました」

世界中の豆を焙煎

妻の有里さんとともに青森に居を移し、「COFFEEMAN good」のバリスタとして働き始める。当初は茨城県の「COFFEE FACTORY」から焙煎豆を仕入れており、焙煎はしていなかった。

「とてもおいしいコーヒーだったのですが、自分で店をやるからにはやはり焙煎も含めて自分のコーヒーを作りたいと思うようになりました。小さなコーヒースタンドではコスト面の理由もあり、自家焙煎に切り替えることにしました」

当初使用したのは、ハマ珈琲の1kgの焙煎機。シンプルな直火タイプで、プロファイルの記録や細かい制御もできないが、それがかえって橋本さん自身の焙煎技術を育んだ。

「同じ商店街には純喫茶もあり、地元の人は深煎りを好む方も多く、スペシャルティコーヒーもそれほど浸透してはいませんでした。だからこそ、いろいろな国の豆を、いろいろな焙煎度合いで焼いてみて、自分がおいしいと感じるコーヒーを探していきました」

南米のボリビアやペルーにも実際に足を運び、ゲイシャ・ブルボン・カトゥーラ・カトゥアイなどのコーヒーを試しながら、メインに扱うようになっていく。


自分で焙煎することで、いままで気づかなかったような、同じ生産国でも農園ごとのテロワールや生産者の努力や工夫があることを知った。

「200店舗以上のカフェを巡った経験から、『おいしいコーヒー』はどこでも手に入るということはわかっていました。だったら僕は、好きな生産者のコーヒーを扱いたい。自家焙煎をすることでそれが実現できるようになりました」

ギーセンで実現する新しい「COFFEEMAN good」の味

2024年からは、焙煎機をギーセンW15Aに変更。それまで試行錯誤して苦労していた焙煎が、より思い通りにできるようになったという。

「それまでの焙煎機は本当にシンプルで、クリーンカップの部分がなかなか難しかった。それが、ギーセンではプロファイルや細かな焙煎時間、排気の調節など、あらゆる面でできることが増えました。今までのコーヒーが親しみのある味だとしたら、現在は以前よりも洗練されたコーヒーになったと思います」


CROWD ROASTERで新しい出会いを

「COFFEEMAN good」で、橋本さん夫妻が大切にしているのは、人と人との店頭でのコミュニケーション。お二人の声がけや接客で、コンセプト通りまさにコミュニティスタンドとして人気となっている。そして、「CROWD ROASTERにも似たようなものを感じる」と橋本さん。

「アプリを見ていると、ロースターさんに対してリクエストとかコメントをされている方がすごく多いですよね。僕にも普段InstagramなどでDMを下さる方や、メンションで取り上げてくださる方は結構いるんですが、文章でのやりとりはあまりできていませんでした。CROWD ROASTERを通して、僕自身も直接レスポンスさせていただけたらすごくうれしいですね」

CROWD ROASTERに期待しているのは、焙煎士による違いを味わえるというところ。

「同じ豆をいろいろな焙煎士の方が焼いたコーヒーを楽しめるというのが、すごく魅力的ですよね。焙煎度合いが同じでも全然違うはず。ユーザーさんからリクエストもできるのがいいですね。僕もぜひ飲み比べがしてみたい」

コーヒーのおいしさはひとつだけじゃない

バリスタとしてのキャリアも10年を超えた橋本さんは、バリスタを志した当初と、目標が変わってきているという。

「CAFE LEXCELでバリスタを始めた頃は、浅煎り〜中深煎りのスペシャルティコーヒーをもっと多くの人に知ってほしい、広めたい、と思っていました。でも、COFFEEMAN goodで焙煎も行うようになった今は、僕が押し付けるのではなく、お客さんが飲みたいと思っているコーヒーを焙煎し、なおかつ僕がおいしいと思えるコーヒーを抽出したいと思っています。言ってみれば『共感できるコーヒー』ですね」


現在、COFFEEMAN goodの店頭で扱っているのは、十数種類の豆を、浅煎りから深煎りまでさまざまな焙煎度合いにしたコーヒー。お店では、バリスタを志した頃にはできなかった、お客様ひとりひとりとの会話を大切にしている。

「注文を受けて抽出し続けるだけだった当時も、もっと好みを聞いた上でお客様が求めるコーヒーを提供できたらと思っていたんです。

コーヒーはコミュニケーションのきっかけを与えてくれるもの。わずか7席だけの小さなコーヒースタンドだからこそ、お客様の好みに合うものをじっくり提供できています」

夫婦二人三脚で、日々心のこもったスペシャルティコーヒーを提供し続けている「COFFEEMAN good」。
2024年3月には、TYPICA GUIDEで優勝を果たし、全国から注目されるロースターとなっている。

それでも今までと変わらずに橋本さん夫妻が生み出すコーヒー、CROWD ROASTERでぜひ味わってみてほしい。


Shop Information
COFFEEMAN good(コーヒーマン グッド)
青森県青森市古川1-17-1 1F
OPEN : 11:00〜18:00(月・木〜日・祝)
CLOSE : 火・水