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焙煎技術とコーヒーへの理解を持つマルチな焙煎士を発掘したい〜ギーセンジャパン 福澤氏インタビュー【特集:1ST CRACK COFFEE CHALLENGE 2024】

若手焙煎士の発見・育成を目指す焙煎大会「1ST CRACK COFFEE CHALLENGE」(ファーストクラックコーヒーチャレンジ。略称「1CCC」)の参加者募集が、2024年5月13日(月)からスタートしました。


「1CCC」を主催するのは、オランダの焙煎機メーカー、ギーセンの日本総代理店であるギーセンジャパン。18歳〜35歳までの若手を対象として、「焙煎の技術」と「プレゼンテーション」に評価軸を置く、他の焙煎競技会とは一線を画した大会です。

予選として行われる焙煎技術の競技は、課題の焙煎豆にいかに自分の焙煎で近づけるかを競います。そして決勝進出者によって行われるプレゼンテーションは、コーヒー業界の課題をテーマとすることで、技術だけではなく広い視点をもった若手人材の輩出を目的としています。ちなみに、ギーセンの焙煎機ユーザーでなくても参加は可能となっています。

昨年の決勝プレゼンテーションの様子

過去の大会のチャンピオンは、第1回がFUKUSUKE COFFEE ROASTERYの三浦拓也さん、第2回がou.bai.tou.ri coffee roastersの小玉真知さんで、いずれもCROWD ROASTERにもご参加いただいています。

3度目の開催となる2024年大会では、「1CCC」と同様にコーヒーの焙煎士(ロースター)にフォーカスしたサービス「CROWD ROASTER」も協賛させていただくことになりました。第3回のチャンピオンには、10月に行われる「SCAJ 2024」で飲み比べのセット販売や、会場でのトークショーなど予定しています。

そんな「1CCC」特集の第1弾として、今回は主催者であるギーセンジャパン代表の福澤由佑さんにインタビュー。「1CCC」を焙煎機メーカーとして立ち上げた理由、日本のコーヒー業界・焙煎士に期待していること、2024年大会に向けた思いなどを語っていただきました。

ギーセンジャパン代表の福澤由佑さん

「1CCC」が他の焙煎大会とは違う3つのポイント

──まず、「1CCC」という大会は、どんなきっかけで始められたのでしょうか?

福澤:第1回大会は2022年に開催しましたが、GIESEN(ギーセン)は2023年まで焙煎士の世界大会「World Coffee Roasting Championship」のスポンサーシップを10年近く続けてきました。元々のギーセンのコンセプトとして、「焙煎士とともに成長していく」というところから始まっていて、ギーセンジャパンもそのコンセプトには共感しています。 

第1回大会のファイナリストたち

ギーセンジャパンにとっては、焙煎機を売ることが仕事ではあるんですけれども、やっぱりそれを使ってくれる焙煎士の成長があってこそ、我々の仕事がある。なので、焙煎士の方が成長できるような機会のひとつとして、「1CCC」という競技会を始めました。

ふたつめは日本固有の話なのですが、焙煎士はどちらかというと職人仕事なので、あまり表に出ることがありません。ただ、マイクロロースタリー(小規模な焙煎所)が増えていく中で、単純にただ美味しいコーヒーを焼ける能力だけではなく、そこに表現する力、人に伝える力があったらもっと強いだろうなと思っていました。

焙煎の技術ももちろん大切なんですけれども、プレゼンテーションという「表現する」というところにも重きを置いて、技術と伝える力の2つを持った人がいたら、業界が前進するだろうと考えたのです。

3つめは、日本スペシャルティコーヒー協会が主催する日本最高峰の焙煎大会「ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ」(JCRC)にギーセンジャパンとして2年ほどスポンサーさせていただく中で感じた、全体的に競技会参加者が比較的同じ方が多く、若い方が少ないということでした。

それであれば、お笑いの「M-1グランプリ」のように、若手がドンと突き抜けられる何かがあったら面白いという思いがありました。参加者の年齢制限を設けたのもそんな理由です。

若い焙煎士にとっては、「JCRC」にしてもかなりハードルが高く見えてしまう。「1CCC」ももちろんハイレベルな内容を目指してはいますが、若い方中心の大会とすることで、参戦の心理的なハードルが下がるんじゃないかとも考えたんです。

──「JCRC」とはターゲットも役割も異なる、もうひとつの焙煎大会、という印象ですね。実際に権威的というよりはフランクな大会だと感じましたが、なにか参考にされた前例はあったのでしょうか?

福澤:2022年に「THE BARISTA LEAGUE」というヨーロッパ発祥の国際的なバリスタの大会を、メルボルンに見に行ったんです。

この大会はどちらかというとクラブの延長線上のような感じで、参加者も音楽で踊ったり、目隠ししてラテアートをしたり、お酒を飲んだりしながら楽しくコーヒーの大会をやっていました。こういう場が日本にもあったら、と思ったんです。

2022年の「THE BARISTA LEAGUE」の様子

もちろん、カルチャーの違いもあり、ワイワイ騒ぐという文化がそもそも日本人の気質的に合わないかもしれません。

僕は2014〜2016年にアメリカで仕事をしていた経験があり、コーヒーに出会ったのもアメリカだったのですが、そういう海外のコーヒーのシーンを見た時にいいなと思い、それを日本でもやりたいという思いもありましたね。

──確かに、日本で権威のある大会ともなると、楽しむという面が折り合わない印象はありますね。

福澤:そうですね。ただ、国際的な大会としては、参加している人全員が楽しめる場が必要だとも思ったんです。

「1CCC」ももちろん競技会ではあるんですけれども、ジャッジも運営も競技者も一緒に、ある種のコミュニティにしていきたい。ワイワイしていてもいい、みんなが楽しめる決勝ステージにしたい──そういう思いもあります。

──実際、今年の決勝大会は会場をより広くして、観客数も増やす予定と聞きました。

福澤:はい、今年は200人くらいが入れる会場を予定しています。コーヒーの大会だからコーヒーの深い話をしなければいけない、というのも逆にプレッシャーになりますし、ビールを飲みながら見てもいいですね。

──スポーツバーでサッカーワールドカップやNFLなどを観戦するようなイメージに近いですね。

福澤:そうですね。僕は「1CCC」を通して、もっとコーヒーを大衆化させたいと思っているんです。

コーヒーの焙煎というのは職人仕事で、焙煎士はあまり表に出てきませんが、一般の方が見ても「焙煎って面白い!」と思わせたら勝ちだと思います。さらに、見てくれた方が何かの機会にコーヒーの業界に関わりを持ってくれたら、新規参入される方も増える。そういうかたちで、業界が盛り上がったらいいなと思っています。

予選で評価するのは「焙煎の再現性」

──そんな2024年大会は、どんな内容を考えておられるのでしょうか? 

福澤:大会としては、焙煎を評価する予選と、プレゼンテーションを評価する決勝があります。

予選のジャッジは2023年と同じRoast Design Coffeeの三神亮さん、スターバックスジャパンの木戸田直子さん、そして2023年のJCRCチャンピオンの天満一行(てんまいっこう)さんの3名を予定しています。

決勝のプレゼンテーションのジャッジは、追ってご紹介する予定です。

2024年の予選のジャッジの方々

──かたや「JCRC」もありますが、「1CCC」との違いはどこにあるのでしょうか?

福澤:質的な部分で言うと、「1CCC」は唯一“客観的な審査を導入している大会”だと思っています。

「JCRC」などの大会は、基本的には豆を焼いて“美味しいコーヒー”をジャッジが評価するというやり方です。もちろん、評価項目に基づいて公平な評価により優れた者が勝つわけですが、そのジャッジの方々の舌で決まります。

ですが、我々の大会は、基本的にサンプルの豆があって、それにどう近づけるかという評価方法です。「1CCC」のジャッジも人間の舌での評価もありますが、ゴールとするもの=正解が僕らの大会には確実にひとつあるんです。さらに、味の素AGF株式会社のご協力により、ガスクロマトグラフィー分析を採用し、データによる客観的な指標も取り入れています。


味の素AGFのガスクロマトグラフィーの例。予選参加者の豆の分析結果は、全員に返している

──なぜこういった評価方法を導入されたのですか?

福澤:そもそも焙煎士の仕事ってなんだろう? と考えた時に、大事なのは「再現性」だと思ったんです。

たとえば、昨日焼いた豆をカッピングして、良ければ同じものを焼きますし、悪ければ修正しますよね。それは、基本的にいい状態のコーヒーを焼き続けるのが焙煎士の仕事だからです。

では、その再現性はどうすれば評価できるだろうと考えると、焙煎度や美味しさなどが焙煎士ごとにバラバラの考えで提出されたものを評価するのは、結構難しいと思ったんです。

そうなると、ひとつ基準となる焙煎豆があって、それに対して近いかどうかを評価するのはどうだろうと考えました。

基準となる焙煎豆自体が、焙煎士にとって完璧な焙煎ではないかもしれません。ですが、その豆のポジティブな面もネガティブな面も、基準豆に近づけることが技術的にはプラスとなります。

そういう意味では、とにかくその豆の味を引き出せること、自分の焙煎プランに落とし込んで同じ味を作ることというのは、いわゆる焙煎士の日常的な業務と同じなんですよね。

「1CCC」は、焙煎士の仕事の究極形を追求する大会だと思っています。

──芸術で言えば、独創性が求められる「アート」なのか、再現性や緻密さが求められる「クラフトマンシップ」なのか、ということとも似ていますね。

福澤:そうですね。僕らは焙煎は「アート」ではないと思っています。

もちろん、焙煎によって出来上がったコーヒー豆を焙煎士やバリスタが表現する、伝えていくことはアートに近い。ただ、僕らの大会においては、どちらかというと同じものを再現するということに重きを置きたい、そこを評価したい、という感じですね。

──それができれば、焙煎士の仕事も認められ、焙煎という技術のすごさも伝わりますね。

焙煎士に「プレゼンテーション」能力を求める理由

──もうひとつの評価軸の「プレゼンテーション」ですが、「1CCC」の決勝では各自焙煎した豆でウェルカムドリンクの抽出は行いますが、プレゼンテーションがメインになっていますよね。ただ、焙煎士=職人という感覚からすると、プレゼン能力はあまり必要ないものなのかとも思ってしまいます。なぜ職人自身に自分の言葉で語らせようと考えられたのでしょうか?

福澤:日本は世界と比べて、マイクロロースタリーがすごく多いんです。海外はどちらかというと30kg釜とか60kg釜などの大きなロースタリーが主流ですが、日本では有名な焙煎士でも5kg程度の釜が多い。つまり、それだけ焙煎士の数も多いということです。そうなってくると、基本的にはオーナー兼焙煎士といった店も多くなります。

ただ、おそらく今後、業界全体として焙煎の品質が上がり、焙煎機の性能も上がっていくと、誰でもおいしいコーヒーをボタンひとつでも焼ける世界が来る。そうなってきた時に、職人としての差別化ができないと思うんです。

ギーセンの全自動焙煎機W6A PRO。オンラインで焙煎も可能

おいしい豆を焙煎する仕事はいつか機械に取られてしまう。でも、そこに付加価値をつけられるのはやっぱり人だとも思っています。その付加価値をつけるのが、僕らの中で「プレゼンテーション」だろうという解釈をしています。

──マイクロロースタリーが多いからこそ、それを武器にする人たちを増やしたいという気持ちもあるということでしょうか?

福澤:そうですね。今後は日本ならではのコーヒー事情、ロースタリー事情という部分も強みになると思います。

2023年のプレゼンテーションの様子

「1CCC」自体を楽しめる大会に

──今年の大会で、新たにチャレンジしようとしていることはありますか?

福澤:今年はCROWD ROASTERさんとこういう形でやらせていただくことも含めて、外部の参加者や焙煎士の情報など、「1CCC」に関してコーヒー業界以外の外向きの発信に力を入れたいと思っています。

あとは、2023年度からのフィードバックとして、1位の方にしかトロフィーを差し上げられなかったのですが、決勝まで進んだ6人には何らかの賞を進呈したいと思っています。今後も再チャレンジしてもらえるように、ホスピタリティを強化したいですね。

そして、先ほどお話ししたように決勝ステージをより楽しく、その場にいる方々みんなで盛り上がらせたいとも思っています。みんな酔っ払って楽しんで帰ってもいいんじゃないかと思います(笑)。

──昨年以上に楽しい、これまでの焙煎大会とはまったく違うものになりそうですね。楽しみにしています!


これまでの焙煎大会の常識を覆すような大会でありながら、焙煎士としての技術以外に日頃からのコーヒーとの向き合い方や考え方までが問われる点で、レベルの高い大会とも言える「1CCC」。3回目を数える今年は、過去2回とも違った、より楽しめるお祭り的なイベントになりそうです。


焙煎士のエントリー期間は5月13日〜24日。焙煎機はギーセン以外でも可能で、1kg釜のマイクロロースティングマシーン(小さな焙煎機)を使っている参加者もかなり多いそうです。自分の腕を試してみたいという人は臆せずにぜひ参加してみてください。

また、観覧については、予選会は決勝進出者の発表のみInstagramライブでオンライン配信しますが、決勝大会は会場で観覧可能になる予定。
CROWD ROASTERでは一連の「1CCC」の大会の様子をレポートしていく予定なので、お楽しみに。

1st Crack Coffee Challenge 大会概要

エントリー期間
 5月13日(月) 12:00 〜5月24日(金)18:00
参加費
12,000円(税込) 競技用生豆3kgを含む
定員
100名

参加資格
・個人、法人問わず
・18歳〜35歳まで(未成年の場合はご両親の承諾書を用意して下さい)
・店舗所属、またはコーヒーを事業として1年以上活動している方
・競技者は決勝の会場に来れること

競技会スケジュール
・5/13(水)〜5/24(金)エントリー期間
・6/7(金)〜 予選競技豆発送
・6/24(月)予選豆提出締め切り(当日指定・必着)
・7/26(金)予選カッピング評価&決勝進出者6名発表 @Instagramライブ
・9/23(金)決勝ステージ @Tokyo Culture Culture

競技チケット申し込みサイト

予選について

予選ルール
・競技者には事前に「競技用生豆3kg」が「競技用サンプル豆30g」が与えられる。
・「競技用サンプル豆」のカッピングを行い、焙煎の特徴を捉え、焙煎プロファイルを考案する。
・焙煎された豆は期日までに提出シートと共に130gを提出する。
・提出された豆は、ガスクロマトグラフィー分析等により評価される。
・「競技用サンプル豆」の分析結果に各スコアが近い順に12名を選出する。
・12名のカップを並べ、予選ジャッジがカッピングを行う。
・カッピングの評価基準はWCRCの一部スコアシートに準ずる。
・予選カッピングは「競技用サンプル豆」のカッピングの結果に近い6名が決勝進出となる。

コーヒー豆の冷凍に関して
・予選のカッピングで使用するサンプル競技豆は焙煎後+7日後に冷凍したものを使用する。
・選手から提出された競技豆は6/25(火)に冷凍を行う。

予選カッピングで使用する水について
・マザーウォーター様ご協賛の水を使用する。

予選カッピングで使用するグラインダーについて
・MAHLKONIG社製 EK43(フラット98mm)を使用する。

決勝について

事前準備
・指定フォーマットによるプレゼンテーション資料を作成し、期日までに提出する。
・決勝で使用する豆は、協賛スポンサーが提供する生豆の中から選択するものとする。
・焙煎度に関しては、不問とする。
・ブレンド豆を使用する場合はスポンサー提供の豆が50%以上含まれていれば自身で用意した豆も使用できるものとする。

1CCC 2024 総合スポンサーからのお題について
・総合スポンサー味の素AGF株式会社からのお題に関して インスタントコーヒーを用いたオリジナルドリンクのレシピを提出する。

決勝ステージ
・制限時間内(20分)にテーマに沿ったプレゼンテーションとウェルカムドリンクの作成を行う。
・提供するコーヒードリンクの種類は問わない。(※アルコールドリンクは不可)
・ドリンク提供の際は、株式会社ケーアイ ORIGAMI JAPANのカップに注ぎ提供する。
・エスプレッソマシン、グラインダーは会場にあるものを使用する。それ以外の機材持ち込みは不可とする。
・火気の使用は厳禁とする。
・その他仕込んだものや、調味料などの持ち込みを希望するものは、プレゼンテーション資料提出時に事前申告をする。事前申告になかったものは、当日の持ち込みを禁止とする。なお、事前申告した場合でも運営側が不適切と判断した場合、持ち込みを禁止する場合がある。
・決勝当日はドリンク作成、提供のサポートとして最大1名の補助人員を手配しても良い。

優勝商品

①Giesen Coffee Roasters オリジナルトロフィー
②日本オランダ 往復航空券 + ギーセンファクトリー見学
③味の素AGF株式会社 ご協賛 徳之島コーヒー収穫祭 ご招待
④焙煎機購入時サポート
※旅行・滞在に関わる諸経費(宿泊費/食費/パスポート取得費などはご自身でご負担頂きます。)
※焙煎機購入時サポートは、歴代チャンピオンに無期限で適用されます。

決勝ステージ概要

日程
2024年9月13日(金)

会場
東京カルチャーカルチャー
(渋谷区渋谷1丁目23−16 cocoti SHIBUYA 4F)

事前観覧チケット
2000円(1ドリンク込み)

スケジュール
13:00〜 開場
14:00〜 競技スタート
18:00〜 バリスタ&ロースター Party
20:00〜 結果発表/表彰
〜21:00 閉会
※決勝競技会のスケジュールは若干の変更がある場合がございます。

観覧チケット申し込みサイト(Peatix)

主催
ギーセンジャパン

オフィシャルスポンサー

味の素AGF 株式会社

ORIGIN COUNTRIES
CROWD ROASTER
HARIO株式会社
RANCILIO GROUP
メリタジャパン株式会社
ORIGAMI
TONY'S CHOCOLONELY
マザーウォーター株式会社
Cafe Snap
FAIRTRADE JAPAN

1CCC 決勝大会サイト