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1CCCへの出場で焙煎士としての世界が広がった〜2023チャンピオン 小玉焙煎士インタビュー【特集:1ST CRACK COFFEE CHALLENGE 2024】

5月13日(月)より参加募集がスタートした、ギーセンジャパン主催の若手焙煎士発掘のための競技会「1st crack coffee challenge」(1CCC)。
2023年に開催された第2回大会で見事優勝したのが、「ou.bai.tou.ri.coffee roasters」(オウバイトウリコーヒーロースターズ)の小玉真知焙煎士です。


もともとギーセンを使用していたという縁から大会を知り、第1回大会でも予選突破を果たしてはいましたが、2度目の挑戦での戴冠となりました。

しかし、焙煎の大会と聞いても、実際にどんなことをするのかはなかなか見えにくいもの。そこで今回は小玉さんに、「1CCC」という大会の一連の流れや、出場したことで得られたもの、そして「1CCC」という大会の魅力などをうかがいました。

まったく新しい焙煎大会フォーマット

小玉さんが「1CCC」について知ったのは、同大会の立ち上げのタイミングでした。

「もともとギーセンオーナーだったこともあって、ギーセンジャパンさんがいろいろなことを企画されているということは知っていました。『焙煎の大会』を開くということで、私も焙煎士であることにプライドを持って仕事をしていましたし、年齢的にも若い世代向け(18〜35歳まで)ということで参加しました」


焙煎士の大会というと、日本最高峰の「ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ」(JCRC)があります。しかし、参戦競争率が高く、そもそも参加できる枠が少なめ。

「(1CCCは)私にも出られる余地のある大会でしたし、大会の方式も新しいプラットフォームで、新しいチャレンジができるのがとても新鮮で、力試しの意味で参加した感じでしたね」

とはいえ、決してレベルが低いというわけではありません。予選は見本となる焙煎豆に近づけた焙煎技術が求められ、参加者それぞれが焙煎して豆だけを提出するという方式です。

「平等にチャンスを与えられて、焙煎の実力を評価してもらえます。私は2回出場して2回とも予選を通過できたのですが、自分の焙煎技術がこんなふうに評価してもらえるんだと自信につながりました」

予選〜サンプルに合わせる“だけ”では勝てない難しさ

そんな予選のしくみを少し詳しくご紹介しましょう。

予選では、「1CCC」からサンプルとして提供される30gの焙煎豆にいかに近づけるかを競います。競技で使用する生豆3kgは参加者が購入することになるため、よく考えて焙煎しなければなりません。

「最終的にベストな焙煎豆を提出すればいいわけですが、私は普段1kgで焙煎しているので、まずは焙煎してカッピングして『これでいいのか』という感触を得てから、次はこの部分を変えて……と2回目、3回目を焼いていきました。一発勝負で提出したチャレンジャーもいるでしょうし、中には細かくして8回、9回と焙煎した参加者もいるようです」


エントリーは個人・法人ともに可能で、もちろん他者の意見を聞くこともできます。小玉さんも、ou.bai.tou.riで品質管理を担当している高仲渉さんや、一緒に働いているスタッフに意見を聞いたりもしました。

サンプル焙煎豆に合わせた焙煎というのは、言葉としてはイメージできます。しかし、実際には同じ豆を使っていたとしても焙煎士・焙煎所ごとに出来上がるコーヒーは異なります。一般的には、誰かに似た焙煎よりも、焙煎士のオリジナリティが求められるコーヒー業界で、小玉さんもその点については難しさを感じたと言います。

「競技としてサンプルに近づけるということは、その焙煎士がおいしく焼ける範囲の中で、豆のどの部分を表現したいのかをサンプルに合わせるということです。おそらく予選での私の焙煎は、そこが近かったのだと思います」

ただし、「1CCC」では味の素AGF株式会社のガスクロマトグラフィーによるアロマの客観的なデータも評価に使用しています。焙煎するのはあくまで人間であり、評価するのも審査員であることは他の大会と変わりませんが、昨年の予選ではこの分析データもかなり近い値だったというフィードバックもありました。

「アプローチとしては、サンプル豆に合わせて自分なりに焙煎すればいいとは思うんです。ただ、最終的に機械を通して計測したアロマが一致していないと、予選を突破できません。私は日頃から焙煎しながら香りを嗅いでいるので、私が引き出したい香りと機械が評価する香りがうまくつながったのかもしれませんね」

ちなみに、2023年の予選では、発送が間に合う3時間前まで、スタッフと一緒に検討し続けました。カッピングしたスタッフたちとは「十分に実力は出し切れている。これで決勝に行けなかったらもう仕方がない。評価のしかたも違うし、どんな結果でもいい」と、焙煎自体には自信があったとのこと。大会としての評価を求めることも大切ですが、なによりも納得のいく焙煎をすること。それがかえって良かったとも語っています。

「決勝に行けたことで、ou.bai.tou.riとしてやってきたことは間違っていなかったと自信を持てました。運営の方が『(この大会は)総合格闘技だよ』とおっしゃっていたんですが、コーヒーで括っていろいろなことをやる大会なんだということは、予選を乗り越えて決勝に行った時に実感しましたね」

決勝〜ウェルカムドリンクとプレゼンをいかにつなげるか

100名近い予選参加者の中から、データ分析と審査員によるカッピングによって絞られるのはわずか6名。狭き門をくぐり抜けた先に、1日かけて一発勝負で行われる決勝があります。

決勝では1人あたり20分間が与えられ、事前に焙煎してきたコーヒーを審査員に振る舞う「ウェルカムドリンク」と、その年のテーマに沿って考えを述べる「プレゼンテーション」を披露します。小玉さんが予選通過した2022年のテーマは「あなたが伝えたいコーヒーの今とこれから」、2023年のテーマは「あなたが考える国内コーヒーマーケットの課題と解決方法」でした。

「正直なところ、求められたテーマに答える作業だけなら、誰でもできると思います。ですが、単にその答えを説明しても面白くないし興味も持てません。なので、私はどう伝えたら聞いている方が楽しいか、興味を持ってもらえるか、という『過程』を考えました」

プレゼンテーションの内容と伝え方の両方が揃っていないと、決勝で勝つことはできません。しかしこれらはどちらも、通常の焙煎業務やコーヒーショップでの店頭業務にはない要素。そして、審査員は必ずしも参加者の日頃の活動や考え方を知っているわけでもありません。そのため、小玉さんが考えたポイントは、プレゼンする「私が何者か」をいかに審査員に伝えるか、ということでした。


「与えられたテーマの解決策を提示する時に、軽く自己紹介しただけでわかってもらえる人なんてほとんどいません。“自分って何者なんだろう”というところからプレゼンの検討を始めました」

こうした事前の準備や努力を積み重ねた結果、2023年に見事優勝。その大きな理由としては、「私の好きなことがうまくテーマに結びついたから」と自己分析しています。

「スタッフやいろいろな人と話す中で、『小玉って美術史好きだよね』という話や、『ou.bai.tou.riってちょっとアーティスティックな表現が多いから、そういうところを伝えたら興味を持ってもらえるんじゃないか』という感じで作っていきましたね」

例えば、ウェルカムドリンクには、単に参加者が焙煎したコーヒーの味を伝える以上の意味があります。そもそもコーヒーの「味」だけを競うためのものではないため、あくまでプレゼンのひとつとしてウェルカムドリンクを位置付けました。

「プレゼンとウェルカムドリンクをリンクさせる意味も考えました。どういうコーヒーで何を表現したいかということと、視覚的にも味覚的にも楽しんでもらおうとすると、やっぱり焙煎から抽出まで考えなければなりませんから」

2023年大会では、フレンチプレスを使って抽出に12分をかけています。その間にプレゼンもしながら、実際に審査員に飲んでもらったのは17分頃でした。


「私の場合、審査員の方に、プレゼンの資料ではなく『私とのコミュニケーション』を楽しんで欲しいという思いで、スライドを見ずにプレゼンしました。動作や所作、動線などと言葉をうまく合わせるようにしましたが、一言一句同じ言葉というわけではなくて、キーワードに合わせてその場の自分の言葉で話したので、半分以上はアドリブでしたね」

伝えたい言葉を選び出した上で、その場の雰囲気に合わせていく。それが過度な緊張もせず、自然な雰囲気のままでプレゼンできた理由かもしれないと、小玉さんは振り返ります。

「完璧にしようとしてもできないことはありますが、本番ではその場で生まれたものを見てもらうという感覚でできたので、笑顔でいられました。序盤は普通に話しながらちょっとクスっとしてもらえたらいいな、くらいな軽い感じで、後半の重要なところは共感を得てもらえるようにイメージしていました」

ちなみに、審査員の雰囲気についても聞いてみると、決して厳しい表情はなく、「みなさんフレンドリーで、笑顔で聞いてくださいました」とのこと。特に決勝日は一般の観客も入れるため、プレゼン自体をショーのように楽しめるところも、1CCCの特徴のひとつです。

大会に参加して感じた、焙煎機と生豆とその先にいるお客様

審査員に、コーヒー業界だけでなく、デザイン関係や農家といった、コーヒーと直接関係がない人がいたこともよかったと小玉さん。

「ou.bai.tou.riの商品ページには花などをたくさん載せているのですが、コーヒーって結局は黒い液体じゃないですか。でも、そうではないところでちゃんと訴求しないといけないと思うんです。

コーヒーというとエッジの効いたデザインが多いですが、女性視点で見ると華やかでエレガントな要素もあった方がいい。そういった部分をデザイン関係の審査員が共感してくださったように思います」


結果として小玉さんが優勝を果たしたわけですが、実は本人は決勝戦を終えた時点ではもう、勝った負けたといったこだわりはあまりなかったそうです。

「個人的には楽しむことが大事で、審査してもらったという感じもあまりありませんでした。もちろん、完璧にできなかったこともたくさんありましたが、『優勝してもしなくても、なんだかすごく楽しかったな』と思えましたね」

「1CCC」という大会の自由な雰囲気も、そう感じた理由のひとつです。

「公式な競技会にはない、いい意味での柔軟さがある大会なんです。そういう意味で、自分の可能性も知ることができたし、戦って自信もつきました。

それと、やっぱりベテランの方には『これが正しい』というもの、自分のスタイルとか経験の中で気づいてきた『こうしなければ』というものがあり、そういう部分が大会の運営や評価で反映されるシチュエーションはあると思うんです。

その点『1CCC』は大会の形式自体がユニークで、それ自体が新しい挑戦です。予選もプレゼンもウェルカムドリンクの抽出もそう。参加者を若手に限定しているという意味も含めてよかったかなと思います」

「1CCC」優勝で得られた大きな「信頼」

まだ新しい大会ではあるものの、優勝したことでさまざまな仕事にもつながったと、小玉さんは語っています。                                    

「『1CCC優勝』という肩書きは、信頼につながりました。業界内でも『焙煎がよかったんだね』と評価してもらえますし、地元の『SUMIDA COFFEE FESTIVAL 2023』というフェスに出た時に『焙煎大会優勝』と書けた時には、『ここのコーヒーって美味しいんだろうなぁ』という信頼にもつながったと思います」


さらに、大会に挑戦する経験がそのまま仕事に広がったことも。

「この大会に出場するまで、ou.bai.tou.riはシングルオリジンばかりだったんです。ですが、大会のテーマに合わせるためにウェルカムドリンクで挑戦したブレンドが好評だったことから、大会のブレンドをそのまま商品化したり、ビジネス的にも広がりが生まれました」

それ以外にも、メディアへの露出増加やイベントへの招待・業務など、以前はなかった仕事も増えたとのこと。これらも焙煎士として日々、焙煎機と豆と向き合うだけでは決して得られませんでした。

「私自身、普段はバリスタとしてお店に立ったりしていません。自分と焙煎機の世界だけを考えている焙煎士は多いと思うんです。以前は、それが孤独に感じることもあったりはしました。

ですが、『私と焙煎機』『私とコーヒー』ではなく、その先に飲む人がいるということがあらためて見えて、そこに触れられるようになったことは大きかったと思います」

結果よりも経験と過程が財産になる「1CCC」

小玉さんに、いま「1CCC」に参加しようか迷っている人にどんな声をかけるかと問うと、「ぜひチャレンジしてほしい」とふたつ返事が返ってきました。

「私はトライすることが重要だと思っています。結果ではなくて、その過程で自信がついたり楽しさがわかったり、可能性が広がるからです。

大会に参加することで横のつながりができるのも楽しいです。予選が終わって参加者同士で『どうだった?』と話したり、決勝で一緒に戦った仲間と『また会いたいね』という輪が広がったりもしました」


2024年のテーマは「ロースターとして持続的なコーヒーの為にできること」。大会という具体的な目標に対して取り組むことで、自分自身の力量も考えもごまかしは許されなくなります。

焙煎技術、大会への対策、評価基準といった大会対策というよりも、焙煎士としての自分自身と向き合い、いまコーヒー業界のためにどう動くべきなのかを考えるきっかけにもなる「1CCC」。何よりその大会を楽しめるかが重要と語る小玉さんのように、ぜひこれからのコーヒー業界を支え、夢を持っている若き焙煎士たちに、「1CCC」に挑戦してみていただきたいです。


1st crack coffee challenge
ou.bai.tou.ri coffee roasters