2014年に、東京・池袋エリア初のスペシャルティコーヒー専門店としてオープンし、今年10周年を迎える、COFFEE VALLEY(コーヒーバレー)。厳選されたスペシャルティコーヒーとフードに加え、アレンジドリンクなど、コーヒーの楽しみ方を常に提案しています。
オーナーバリスタの小池司さんは、イギリス留学中に出会ったコーヒー文化に惹かれてバリスタに。ラテアートの世界選手権でも入賞しています。
小池さんが焙煎を始めたのはCOFFEE VALLEYをオープンしてから数年後。お客様に向き合う中で、より多様な提案をしたいと考えたことや、自分の中でこうした味にしたいというのがはっきりとしてきたからだと言います。今は店で提供するコーヒーをすべて自家焙煎しています。
人生を変えたロンドンのエスプレッソ
──イギリスでコーヒーに触れたそうですが、その出会いについて教えてください。
小池さん:大学卒業後にワーホリでイギリスに行き、カフェで働くことになったんですが、エスプレッソを出さないといけなくなり、研修に行った先がモンマスコーヒーという向こうでは有名なカフェだったんです。そこがスペシャルティコーヒーをやっていて、初めて飲んだエスプレッソが非常に美味しくて。研修も何時間かでしたけど面白くて、コーヒーに興味を持ったきっかけですね。
そこからさらにハマるきっかけになったのは、ラテアートが面白かったから。僕は最初コーヒーが飲めなかったのですが、ラテアートは視覚で伝えられてわかりやすいじゃないですか。
──コーヒーを飲まれていなかったんですね。
小池さん:そうなんです。そんな中でもコーヒーやラテアートを“つくる”ことが面白かったのでそれがきっかけです。もう、つくってつくって、つくりまくってましたね。
独学でやってましたが、東京に帰ってきてからは、たまたまラテアートの有名な人たちがいる店に入ったので、 大会に出たりしていました。ラテアート中心にやってましたが、コーヒー屋さんもみんなで回ったりしてました。
──ラテアートでは海外の大会で入賞経験もありますが、そこからスペシャルティコーヒーに本格的に興味を持ち始めたのはいつごろでしたか?
小池さん:COFFEE VALLEYのオープンの時ですね。自分で立ち上げるのでどういうお店にしようか考えた時に、ラテアートもあるけれど、いろいろなコーヒーが飲める形がいいなと思っていました。10年前なんですが、ちょうどサードウェーブの終わりかけぐらいの頃だったんですね。そこでいろいろなコーヒー豆を取り扱おうと思ったのが最初のきっかけです。イギリスにいたときは、僕の中ではスペシャルティと普通のコーヒーの違いにあまり境目はなかったんです。流行っていたのは知っていましたし、サードウェーブの流れはありましたけどね。
10年経って感じる独立の地、池袋の変化
──お店の話が出ましたが、そもそも自分のお店を開きたいという思いは最初からあったんでしょうか。
小池さん:あまりなくて、いろんな人のサポートがあったり、たどり着く先が結局そこだったっていうだけなんです。僕は運だと思ってるんですけど。
──池袋はスペシャルティコーヒーが飲めるカフェなどがほとんどない場所だったと思います。出店に躊躇はなかったですか?
小池さん:僕たちが池袋の初のスペシャルティコーヒー専門店っていう謳い文句でしたね。ないのはないなりの理由があるんだろうなとは思ってましたけど、当時の僕は若かったのか、えいや!でいけちゃった。今考えればめちゃくちゃ怖いなと思います(笑)。
──そうですよね(笑)。池袋で開店から10年、変わったと感じることはありますか?
小池さん:以前より浸透してきたかなと。最初は深煎りしか出なかったんですけど、今は浅煎りを求めてくるお客様も多いし、豆も買ってくれる方も多くなってます。昔はコーヒーのラインナップも今より全然少なかったんですが、売れる、売れないが顕著でした。今も卸では深煎りが多いですけど、浅煎りは浅煎りでどんどん認知度が増えて、求めているお客様が増えたなと思います。コーヒー屋さんも増えましたね。
──それは市場全体の変化もあるとは思いますが、10年間お店でやられてきたことの積み重ねもあったのかなと思います。お店を始めた時に、こういうお店にしたい、池袋でこういう存在になりたい、といった思いはありましたか?
小池さん:池袋に根差したお店にしたいっていうところがやっぱり1番大きいですね。池袋っていろんな方がいらっしゃるんです。最初はオフィスワーカーが多いかなと思ってたんですけど、全然それだけではなく、住んでる方もすごく多くて。駅からちょっと離れると住宅街なんですよね。思った以上に老若男女いろんな方がいらっしゃっるなという印象だったので、そんなところから幅を広げてコーヒーを提案したいと考えたのということもあります。
シンプルにコーヒーを楽しめる場に
──COFFEE VALLEYで販売されているコーヒー豆の袋ですが、載っている情報がシンプルだなと感じます。どちらかと言うと、お客様もお店で直接話したりして決められる方が多いですか?
小池さん:そうですね。難しくしすぎないようには意識してます。難しくしてコーヒーが玄人だけのものになるのはちょっと違うなと思ってますし、もっとラフにコーヒーを楽しんでもらえるように、シンプルにしていく、そういうことは努力していかないといけないんじゃないかなと。場所柄、そういうところもありますし。
──入り口となるようなお店を目指されているんですね。小池さんご自身は、最初からコーヒーを広めていきたい! というモチベーションでやられていたんでしょうか?
小池さん:最初のころは広げたいとかはそこまで思ってなかったですね。コーヒーって面白いでしょう、ということを伝えたかったんです。コーヒーを飲めなかった自分がイギリスで飲めるようになったのは浅煎りだったし、苦くないコーヒーを初めて飲んだ時の感動が、みんなに体験として伝わったらいいなと思っていました。
ただ、今はもうちょっとコーヒーをみんなに飲んでほしいなって気持ちがあります。
なぜかと言うと、みんなコーヒーを飲まなくなってきてるんじゃないかって危機感がすごくあるんです。若い方は特に。
僕自身の体感としては、コーヒーを飲む方がどんどん少なくなってきてるなっていう印象なんです。周りの人の話を聞いてもそうですし、勝手な危機感ですけど……。裾野を広げていくじゃないけど、そういう活動ができたらいいなとすごく思います。
──特に若い方が減ってきているという印象とのことですが、このあたりは学生も多いですよね?
小池さん:来てはいるんですけど、昔ほどグッとコーヒーに入ってくる人がいなくなったイメージです。昔の方がもっとコーヒー大好きでハマっちゃう人が多かったけど、今はその絶対数が少なくなってきてるんじゃないかなと。ですのでいろんなきっかけを作れたらいいなと思っています。
──そういう面でも、COFFEE VALLEYを入口として入ってもらいたいですね。
小池さん:そうですね。僕も未だにコーヒーをたくさん飲むわけではないですが、コーヒーって面白いって思いますし、ハマってくれたらいいなと思っています。
──ベースにはやはりご自身の体験があるんですね。小池さんは何かにハマりやすいタイプですか?
小池さん:ではないですけど、ハマったら結構やっちゃうタイプで、最近ゴルフにハマっていて、僕もコーヒー以外でこんなにハマったことなかったのでびっくりしました(笑)。自分で楽しいなって思えることは結構やっちゃうんです。
──そういう意味では、焙煎もやはり面白いから?
小池さん:そうです。結局、コーヒーづくりもそうなんですけど、何が面白いって、何回やっても同じようにできないっていうところですよね。ラテアートも最初、なんでできないのかわかんなくて、そういうわかんないことが楽しい、というのはすごくあります。
未だに抽出も焙煎もわからないことがいっぱいあるんですけど、なんでだろうって考えるのが楽しいんですよね。エスプレッソも日によって違うし、繊細だし、そういうのが楽しい。ゴルフも同じフォームで打っているつもりなんですけど、なんでか違うんですよ(笑)。それが面白い。
──しばらくハマりそうですね(笑)。
お客様にもっと提案したいと始めた焙煎
──もう少し焙煎についてお聞きできればと思います。開店後数年は自家焙煎ではなかったそうですが、具体的に焙煎を始めようとしたタイミングやきっかけはあったんですか?
小池さん:自分の味というか、ここはこういう味を出したい、というのが明確になってきたんですよね。焼いてもらっている豆も美味しかったんですけど、もうちょっとああしたいとかこうしたいという気持ちが出てきたんです。そうなった時に、自分で焙煎するしかないと思いました。
──やはりそれはお客様ベースというか、すでにお店やられていて、いらっしゃるお客様にどういう風に提案したいか、が根底にあったんでしょうか。
小池さん:そうですね。結構お客様ベースで考えることが多いです。自分たちが出したい味ももちろんありますけど、結局お客様に受け入れられなかったらどうしようもない。そういうところはうまくバランス見てやるようにはしてます。
──そこは始めから自家焙煎としてスタートしたお店とはちょっと違うところかもしれないですね。焙煎の師匠のような方はいましたか?
小池さん:いろんな方に見てもらいました。それこそ最初のころは、豆を入れてもらっていた「OBSCURA COFFEE ROASTERS」の柴さんに見てもらってましたし、静岡にある「くれあーる」の内田さん、ローストマスターズの委員長なんですけど、その方に繋がりがあって来てもらったこともありましたね。
──焙煎機についてもうかがいたいのですが、今使用されているプロバットの特徴や良いなと思う点はどんなところですか?
小池さん:プロバットは2台目で、最初はギーセンの小さいやつを使っていて、2キロでちょっと足りなくなったので大きいものに変えた経緯があります。1パッチ5〜6kg、8kgまで入れるときもありますね。焙煎機によってもちろん全然違うんですけど、正直、今はどの焙煎機でも大体美味しく焼けるとは思います。でもプロバットが良いなと思ったのは、甘い印象に仕上がることですね。もちろんフレーバーはありながら、甘さの厚みもすごくあるような気がしています。
──焙煎で意識していることはありますか?
小池さん:僕たちは結構バランスを意識していて、酸っぱすぎず苦すぎないところですね。浅煎りがすごく流行っていても、どのぐらいの度合いがいいのかはチョイスしていました。
──浅煎り一辺倒にする必要はないってことですよね。
小池さん:それはそれでうちもやっていたので否定はしないんですけど、それがベースじゃないと思ってましたし、酸だけが強くなってるような感じはちょっと嫌だなと思ってるんで、甘さと酸のバランスは意識しました。自分たちが最終的に出したい味があってそれに対して焙煎がある。だから浅すぎないというのはすごく意識しています。
──焙煎度でいうと中煎りくらいのイメージになるんでしょうか。
小池さん:そうですね。エスプレッソベースのドリンクが出ることが多いので、ドリップベースで考えてはいないんです。だから少し深めになってるのかもしれないですね。
──日本ではハンドドリップが強いところが専門店では多いと感じますが、そういうところとも少し違いますね。
小池さん:ある意味、カフェチェーン店と、個人オーナーのスペシャルティコーヒー店の間のような立ち位置を意識しているのもあります。
──お店では「3PEAKS」というメニューも提供されていて、エスプレッソへのこだわりも感じられます。こういったエスプレッソを含んだセットはあまりないですよね。
▲3PEAKSは同じ豆を使用し、エスプレッソ、エスプレッソマキアート、ドリップコーヒーと異なる抽出方法で飲み比べできるセット
小池さん:エスプレッソは苦手な方や飲めない方が多いですけど、それすら知ってもらえたらいいなって、それぐらいの次元から始めようかなって思っています。
エスプレッソがどんなものか知らないで見た目でこのセットを頼まれて、苦いって言う方もいますが、それでも知ってくれたんだったらまずはよかったのかなって。池袋ではコーヒーに対してそんなに詳しくない方も多くいらっしゃるので、何かきっかけになってくれたらそれでいいというスタンスではありますね。
──ここもきっかけ作りにつながるんですね。
小池さん:結局「3PEAKS」もきっかけのセットでしかないんですよね。美味しいと思ってくれたらいろんな豆で飲んでもらえればいいし、エスプレッソよりドリップの方が美味しかったらドリップで飲んでもらえればいいし、そこから何を考えるかのきっかけだと思っています。
徐々に増えてきたコーヒー豆のラインナップ
──お店では相当な種類の豆を焙煎されていると思いますが、普段お店のラインナップはどのくらいあるんですか?
小池さん:12、3かな。最初は6種類ぐらいからスタートして、今倍くらいになりましたけど、とにかくこの辺で1番ラインナップの数を多くしたいっていう僕の願望があるんです。
──それはコーヒー豆を買われる方が増えてきたからというのもありますよね。
小池さん:もちろんそうですね。増えてきているのでできることではあるんです。でももっと増やしたいなと思ってはいます。
──ラインナップで重視している生産地域などはありますか?
小池さん:結局、僕が選ぶと同じような味になっちゃって偏ってしまうので、いろんな人に意見を聞くようにはなりました。
ただ、強いて言うならコロンビアは多いですね。僕が行ったことがあって思い入れのある農園もあるので。それにコロンビアって大きいし、北から南まで、いろんな味があるので、多く採用しているというのもあります。
他は特にこだわりはないです。バランスよく。どちらかというと、焙煎度合いの方をばらけさせるように意識してますね。なるべく被らないようにはしたいなと。
──お店でも焙煎度と味わいの方向がひと目でわかるチャートを出されてますよね。選択肢が増えてきて、ご案内するのも大変ではないですか?
小池さん:そうなんですよ(笑)。楽しいんですけど、お客様は迷われますよね。でも常連さんも多いので、これをずっと買う人もいればこっちをずっと買う人もいるし、いろんなものを試してみようっていう方もいるので、そういう方にとっては面白いのかなとは思ってます。
CROWD ROASTERに参加して3年目の今、考えること
──小池さんはCROWD ROASTERに、2021年から参加されてローストイベントもやっていただいてますが、印象としてはいかがですか?
小池さん:今もですが、当時はCROWD ROASTERさんのようなタイプがなくて、面白いんだろうなとは思ってました。こういうプラットフォームがあればいいよなあと思っています。
──今後、CROWD ROASTERでやってみたいことはありますか?
小池さん:オンラインじゃなくて、対面でできるイベントみたいなものをCROWD ROASTERさんとやったら面白いのかなと思っています。うちみたいなライト層のお客様と、CROWD ROASTERさんのコアな情報を持ってるお客様たちとの接触みたいなものは面白そうですよね。そういうところからハマった人たちにプラットフォームに行って買ってもらう、みたいな感じがいいのではと思ってます。
──コーヒーにハマった方に対して1つ選択肢として、CROWD ROASTERもあるよと。
小池さん:オンラインとオフラインでどう交わっていくかみたいなのを考えると楽しそうだなと思いますね。
石谷さんゲストバリスタイベント開催
──イベントのお話が出ましたが、今回お店でバリスタ日本チャンピオンの石谷貴之さんを、ゲストバリスタに迎えたイベントを開催されますね。
小池さん:先ほども言いましたが、僕個人は若い方がコーヒーを飲んでない気がしてしょうがないんです。もっとコーヒーを飲んでもらうようなきっかけ作りをした方がいいなと思っていて。アレンジドリンクとかいろいろですね。
今回、石谷さんとのイベントで、石谷さんにシグネチャーのドリンクを作ってもらうんです。エスプレッソ、カプチーノセットはもちろんやるんだけど、それは石谷さんもいつも出しているので、ここでしか飲めないシグネチャーのドリンクを作ってもらって、今回初めて提供してもらいます。それを僕はすごい楽しみにしてるんです。
──いいですね、ぜひ飲みたいです!
小池さん:面白そうですよね。どんなものを出してくるか気になるし、どういうつくり方をしてるのか僕も勉強したいし。まさにどういう風に裾野を広げていくかみたいなこと考えると、そういうドリンクがあってもいいかなと思っています。
僕たちスタッフ側としては勉強として楽しみというか、セミナーの一環でモチベーションにもなる。お客様には、世界で通用するラテ、エスプレッソを飲める機会がここ池袋であるっていうこともそうだし、そういう人たちがつくるアレンジドリンク、「JBC」とかで出してるシグネチャーを体験できる場所ってなかなかないから、知ってる人も知らない人も面白いんじゃないかなと思います。
──池袋でカフェを利用しようと思った方など、石谷さんと普段交わらなそうな方にも知ってもらえる機会ですね。コーヒーの楽しみ方を紹介する場にもなりますし、いろんな方に来ていただきたいです。
小池さん:コアの人も来てほしいし、もっとライト層に来てもらっても全然いいし、いろんなタイプの人が楽しめるイベントになるんじゃないかなと思っています。
──楽しみにしています!CROWD ROASTERでも、石谷さんのイベントで使われる特別なコーヒー豆のローストイベントを、当日と同じく小池さんの焙煎で募集予定です!遠方や当日足を運べない方はぜひこちらにご参加ください!
<イベント詳細>
バリスタ日本チャンピオン石谷貴之氏 ゲストバリスタイベント
ジャパンバリスタチャンピオンシップ 2017 、 2019、2023年では3回の優勝と、数え切れない程の入賞経験を誇り、2024年5月韓国にて行われたワールドバリスタチャンピオンシップでは3位に輝いた石谷貴之氏をゲストバリスタにお迎えします!
当日は、エスプレッソやミルクビバレッジをお楽しみいただけるのはもちろん、この日だけしか飲めないオリジナルのシグネチャードリンクもご用意いただく予定です!世界トップレベルのコーヒーを体験いただける貴重な機会ですので、是非お誘い合わせの上ご来店ください!
開催日時:2024年9月6日(金)15:00 〜 19:00
場所:池袋 COFFEE VALLEY
※ 当日はご予約いただかなくても、どなたでもご参加いただけます。お席が満席の場合のみお待ちいただきますので、予めご了承ください。
※ 石谷氏によるサーブは1階奥のカウンターにて行います。お席は1階から3階までご利用可能ですが、満席時はお並びいただく場合もございますので、お時間には余裕を持ってお越しくださいますようお願いいたします。
COFFEE VALLEY
東京都豊島区南池袋2-26-3
営業時間:平日 8:00-20:00、土日祝 9:00-20:00
※営業時間は変更の可能性があります