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コーヒーの「ボディ」と焙煎度

 
コーヒーの銘柄を説明する際に見かける、「フルボディ」「ミディアムボディ」「ライトボディ」というボディの概念。このボディと焙煎度合いは明らかに関連があるが(焙煎が深ければフルボディで、浅ければライトボディということが多い)、とはいえ実はイコールでもない。

このわかりにくい関係性を、ここで一度整理したみたいと思う。

もともとはワイン用語のボディ

ご存知の通り、ボディはワインの世界では一般的な表現だ。

フルボディは、味わいが深く濃厚、力強さや重み、渋み(タンニンに由来)があり、香りも濃厚なワイン。主に赤ワインの表現として使われ、しっかりと熟成されアルコール度数も高いワインについていわれることが多い。

一方、ライトボディは口当たりが軽く、飲みやすいワインで、熟成されていないフルーティーな新酒などがその代表格となる。

ミディアムボディはその中間で、バランスが取れているワインということになる。

こうしてみると、フルボディ、ボディのあるというのは、味わいも香りも重厚で液体に多くの成分が出ており、質感も重いということができる。

エスプレッソのボディの強弱

 
これをコーヒーに置き換えて考えたとき、その違いがはっきりとわかりやすいのはエスプレッソでの抽出だ。

高圧で抽出するエスプレッソは、コーヒーに含まれる油分が乳化し、粘性が生じる。この粘性を含む質感と濃度がエスプレッソのボディの強弱を決める点となる。

ボディのあるエスプレッソは、クリーミーで、粘りのある、とろみのある濃厚なもの。ボディが弱いのは、サラリとしてどちらかといえば水っぽいエスプレッソである。

ここでお気づきの方も多いと思うが、エスプレッソのボディは焙煎度と比例するわけではないということである。つまり、深い焙煎であっても、ボディの弱いエスプレッソは存在する。

コーヒー豆の品質や焙煎、抽出などの要因はいくつもあるが、単純に「フルボディ=焙煎が深い」といえるわけではないことはおわかりいただけるだろう。

口当たりと関係が深いボディ

フルボディ、ボディがあるコーヒーとは、質感が重めでエスプレッソではクリーミーで粘性、とろみがあるものといえる。

こうした表現からは、口当たり、つまり口に含んだときに感じる液体の質感が大きくかかわっていると考えられる。

実際、Cup of Excellence方式のカッピングフォームでもっともボディと関係が深いのは「Mouthfeel」の項目だ。とくにその強弱を評価するのはHigh Body、Medium Body、Low Bodyという3段階となっている(強弱に加えてその質も評価する必要がある。また、SCAA方式ではBodyという評価項目がある)。

こうしたことからボディとは、単純化していうと質感のことだともされる。しかし質感には、ざらつきや丸みといった液体自体についての評価も含まれるため、質感とボディがまったく同一のものかというとやはり違いはある。

日本独特の表現「コク」

ボディととても近い言葉として、日本では「コク」という表現がある。これもボディと同一視されることが多い。

コクとは何を指すのかというのは説明が難しく、一般的にはうま味や甘味がかかわる表現だといわれるが、コーヒーやビールといった苦味が多く含まれる飲料に使われる際には、苦味も含んだ味わいの「深み」と「広がり」、それが長く残る「持続性」を指すものといわれる。

深みのある長く残る味わいは、ボディがあり、深みがなく後味がすっきりとしたものはボディが弱い、という言い方をすると、特に違和感はなく、コクとボディがかなり近いものだということは理解できる。

ただ気になるのは、「コク」はおいしさを表現する言葉のひとつであること。この点においてはボディと同じ意味とすることはできない(コクがないという表現はおいしくないことを意味するが、ライトボディでもおいしいコーヒーは当然存在する)。

フィルターコーヒーのボディとは?

 
エスプレッソの十分の一程度の濃度とされる、フィルターで淹れたコーヒーでは、エスプレッソのような粘性や濃縮感はあまり感じられないため、ボディの表現も少し異なってくる。

フィルターコーヒーでのボディは、質感の重さや味わいの厚みといった部分がか大きくかわってくる。それらの持続性も大きく関係してくる。

フルボディのコーヒーは、質感が重くどっしりとした飲み口で、長く味わいが残る。一方、ライトボディのコーヒーは、質感も軽くすっきりとした飲み口である、ということができるだろうか。

ここに焙煎によるフレーバーの傾向を加味して考えてみると、苦味も多い焙煎の深いコーヒーでは、重みや深みの出ることが多く、酸味がしっかりある浅煎りのコーヒーでは繊細さが全面に出て、すっきりと感じられることが多い。

こうした傾向から、フルボディは深煎り、ライトボディは浅煎りと結びつきやすいことがわかる。

ただこれもやはりイコールではない。比較的浅煎りでもボディがしっかり出るコーヒーもあれば、深煎りでも深みのない味わいでフルボディとはいえないコーヒーもある。

フィルターコーヒーでも、焙煎度とボディは比例関係にあるわけではないのだ。

ちなみにハンドドリップなどのフィルターコーヒーでは、使う豆の量や挽き目の調整でも、ボディのコントロールができてしまう。

こうして考えると、ボディとは、そのコーヒーの味わいの成分がどれだけしっかりと抽出されるかにかかっていると、ひとまずはいうことができる。
 
そしてまたこれも重要な要素のひとつであるが、コーヒー業界におけるコーヒー豆の評価基準として、ボディと並んで取りざたされるのが、アフター(アフターテイスト)である。
良いコーヒーはアフターが長い。これはコーヒーのバイヤーや関係者の間での出てくる言葉である。
 
このアフターの概念については、また別の機会に説明していければと思っている。

最後にまとめると、コーヒーの銘柄の特性や焙煎によって、その成分が引き出されやすい(引き出されている)ものがフルボディ。それがあまり重くならずにすっきりと飲める(香りが重視されることも多い)ものがライトボディということになるだろう。


コーヒー選びの際、こうしたボディについて今一度考えてみるのも、コーヒーの面白い選び方となるのではないだろうか。

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コーヒーの味わいや焙煎との関係といったことは、まだあまり知られていないことも多い。みなさんとともに私たちも、これからさらに学び追求していきたい。
 
 
2022.03.23
CROWD ROASTER