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KYOTO COFFEEとは?欧米で注目される日本のアイスコーヒー抽出法

欧米でも広がるアイスコーヒー

暑い日に飲みたいアイスコーヒー。アイスコーヒーが文化として浸透している日本では、その作り方もさまざまに工夫されてきた。

しかし、近年は欧米でも夏にアイスコーヒーが飲まれているどころか、今や年間を通じて消費される主流商品となっている。実際、グローバルなアイスコーヒー市場は、2024年の111億ドルから2034年には214億ドルに拡大すると予測されている。

特に注目すべきは若い世代の消費動向だ。調査によると、若い世代、特にZ世代は従来のホットコーヒーよりもRTD(レディ・トゥ・ドリンク)コーヒーを飲む可能性が「著しく高い」ことが明らかになっている。アメリカではアイスコーヒーの売上が過去5年間で年平均成長率8%を記録し、生産量も5%の成長を維持している一方、ホットコーヒーの消費は減少傾向にある中で、コールドコーヒーの消費は継続的に成長している。

「キョートコーヒー」とは?


そんなアイスコーヒーに抽出方法がいくつかあるが、Cold Brew(水出しコーヒー)は、日本で始まった抽出方法だといわれている。簡単に水出しコーヒーを淹れる方法としては、コーヒー粉を水の中に入れて数時間から十数時間置き、その後、ペーパーフィルターなどでコーヒー粉を濾す方法がある。また、市販のお茶パックを使えばより簡単だ。

一方、専用の器具を使った特徴的な水出しコーヒーの抽出方法が「ダッチ・コーヒー」だ。ダッチとはオランダのことだが、ダッチ・コーヒーが指すのは本国ではなく戦前のオランダ領東インド、後のインドネシアのことだという。

このダッチ・コーヒー、極めてゆっくりと、一滴ずつ水をコーヒー粉の上に落とす方法である。一つのポットのアイスドリップコーヒーを作るのに24時間以上かかることがある。

コーヒーの産地であるインドネシアでは、現地での飲み方として、コーヒー粉にたっぷりと水を含ませて、滴り落ちる濃厚なコーヒーエキスをミルクで割るという飲み方があったという。これに使うコーヒー豆は、臼と杵で搗いてかなり細かくしたもので、しかも生産地らしく、粉の量もかなり多かったようだ。

このような産地ならではの抽出方法にヒントを得て、戦後に京都で生まれたのがダッチ・コーヒーだといわれる。ウォータードリップともいい、ガラスの太い筒にコーヒー粉を入れて、その上に置いた容器から水が一滴ずつコーヒー粉に落ちていき、抽出液が一滴ずつ溜まっていく。

専用のガラス製器具を使って、常温で数時間かけて抽出されるこのダッチ・コーヒーは、独特のまろやかな風味と濃厚なコクが特徴。昔ながらの喫茶店に置かれた巨大な器具を見たことがあるかもしれない。

これが蘇ったのが、2010年代のアメリカだ。日本のこの器具が紹介されて使われるようになり、「Kyoto Coffee(キョートコーヒー)」と呼ばれている。実際、京都で生まれたこの抽出法、今後新しい世代によってさらに使われていくかもしれない。

アメリカで広がる「ジャパニーズアイスドコーヒー」


「キョートコーヒー」は、専門店で専用の器具を使う抽出方法で、水出しならではの独特の風味を楽しむためのものだ。アイスコーヒーとして提供されることが多いとは思うが、もちろん温めて飲むこともできる。

一方、「Japanese Iced Coffee(ジャパニーズアイスドコーヒー)」は純然たるアイスコーヒーの抽出方法である。いわゆる「急冷法」のことだからだ。ペーパードリップを受けるサーバーに直接氷を入れて、通常より濃く抽出したコーヒーを急冷する方法である。

このフラッシュチル(急冷)によるアイスコーヒーの抽出方法は、長年日本で人気を博してきた。
そのため、この方法はJapanese Iced Coffee(ジャパニーズアイスドコーヒー)と呼ばれていた。
Buzzfeedは、1990年代後半にこの技術をアメリカに持ち込んだのは、Counter Culture Coffeeであるとしている。

アメリカでは家庭用としてハリオV60を使ったレシピが広まっているようだ。大手のコーヒーチェーンでも、アイスコーヒーがメニューに加わっているが、自宅でもアイスコーヒーを楽しもうとする際に、水出しよりも格段に手軽なために、この方法が使われている。

この方法の利点として、より美味しい味わいを短時間で実現し(コールドブリューよりもはるかに早く完成する)、使用するコーヒー豆の量も少なくて済むため、コストパフォーマンスが高い。

特に昨今のインフレにより、テイクアウトするコーヒーの値段も上がっていることから、自宅でアイスコーヒーを淹れるという文化が徐々に広まってきている。

また、スペシャルティコーヒー店では、自店の焙煎豆を使った水出しコーヒーをおしゃれなビンや缶に入れて売っていることも多い。自宅で楽しむようになるほど、欧米にもアイスコーヒー文化が一般化してきているということだろう。

欧州でも拡大する甘味重視のアイスコーヒー文化

cold brew coffee with milk

ヨーロッパでは、アイスコーヒーのトレンドとして、消費者はアイスコーヒーにより甘いフレーバーを求めており、幅広い甘いフレーバーを特徴とする商品が登場している。チョコレートやキャラメルなどのブラウンフレーバー、バニラ味の選択肢、ヘーゼルナッツやアーモンドなどのナッツを使った調製品が人気だ。

興味深いことに、ヨーロッパの消費者の2人に1人が植物性の素材を使った飲料のを試すことを希望しており、アイスコーヒー市場の成長を促進している。ブランドは、オーツ、大豆、アーモンド、大麦を使用してキャラメルやバニラなどの人気フレーバーで植物性アイスコーヒーを作ることで、この関心を活用している。

新ジャンル・ニトロコーヒーも普及


アイスコーヒー市場の新たなトレンドは、コールドブリューの普及、植物性ブレンドの増加、機能性成分の導入、そしてニトロ化やフレーバー付きアイスキューブなどの新しい飲み物の登場を中心に展開している。

特にニトロコーヒーは注目を集めている。ニトロアイスコーヒーは、クリーミーでスタウトのような食感と低酸味のフレーバーを持つ飲み物として注目を集めており、乳製品を加えることなくバリスタスタイルのコーヒー体験を発展させている。


アイスコーヒーの未来は、日本で培われた伝統的な技術と現代の消費者ニーズが融合した形で展開されている。「キョートコーヒー」や「ジャパニーズアイスドコーヒー」といった日本発祥の抽出方法が、世界のコーヒー文化を変革する原動力となっているのは間違いない。

自宅で楽しむようになるほど、欧米にもアイスコーヒー文化が一般化してきている現在、日本の伝統的な知恵と技術が、グローバルな飲料トレンドを切り開いたともいえるだろう。