ラテアートNo.1バリスタを決める「フリーポアー・ラテアート・グランプリ東京2024」が、2024年4月10日(水)〜12日(金)、東京ビッグサイトで開催された食品展示会「第27回ファベックス2024」内で行われた。
本大会は、日本食糧新聞社の協力を得て、一般社団法人日本ラテアート協会が主催。2023年はコロナ禍の影響により3年ぶりの開催で話題を集め、今回は記念すべき通算10回目の開催となる。
試合は2人ずつ、観客の前で3分間で競い合う
大会は国内外のバリスタ・アーティスト64名によるトーナメント戦。3分間で描いた1作品を3名のジャッジが採点し、2票を獲得したバリスタが上位に進出する。出場するには事前に行われる予選に通過しなければならないが、前年度上位者のシード権などはなく、決勝の3日間は全員が優勝を目指して競い合うかたちだ。
カップなどの道具は使い慣れたものを持ち込めるが、グラインダーやエスプレッソマシンは大会が準備したものを使用。特にエスプレッソマシンは「La Marzocco Linea」と、「Astoria Plus 4 You TS」の2台で、どちらを使うかは相談やじゃんけんなどで決めるため、仕上がりにも影響が出る部分でもある。
向かって右側がAstoria
向かって左側がLa Marzocco
トーナメントは3日間を通して行われ、初日の10日(水)に64名から32名、11日(木)に32名から16名まで絞り込み、12日(金)にベスト16から決勝戦までが執り行われた。
上位3名には賞金のほか、協賛各社からの副賞も授与。今大会は節目の10回目ということで、優勝トロフィーは日本らしさを感じさせる有田焼のオリジナルトロフィーとなった。
各協賛企業からは豪華な副賞が多数。CROWD ROASTERからは生豆が贈られる
芸術性とテクニックは年を追うごとにレベルアップ
そもそもラテアートは、エスプレッソにスチームミルクを流し込む中で絵柄を描く、バリスタからユーザーに対するサービスのひとつだ。
しかし、この「ラテアート・グランプリ」の作品は次元がまったく違う、文字どおりカップの中に描かれた芸術作品。ラテアートに関する知識がない人なら、なぜこんな絵が描けるのか、といったところから素直に楽しめる。
審査項目は、①スピード、②外観の美しさ/バランス/調和・対称性、③色の表現力、④明確生、⑤創造性と難易度の5つ。3分間の規定時間内であれば何度でも作り直していいが、大事な①スピードの1点は犠牲になってしまう。しかしそれを上回る美しさ、丁寧さ、創造性を持っていれば十分に勝てる可能性はある。
どれだけ独創性があってもぼやけてしまっては意味がなく、どれだけ仕上がりが早くても表現力でかなわないこともある。選ぶモチーフ、使う道具やエスプレッソマシンなど、一発勝負のトーナメント戦だからこその緊張感と難しさこそが、この「ラテアート・グランプリ」という大会をバリスタも観客も一緒に楽しめるエンターテイメントにしてくれている。
そんな中でも、2023年のチャンピオンで今大会にも出場していたタイのキティピッチらのように、複雑な模様を描く動物のモチーフは、それまでのトレンドを覆して注目を集めた。いわゆる「置き系」と呼ばれるこの方式は作り方などもSNS等で一気に広がり、今大会でも動物モチーフを描くバリスタはかなり多かった印象だ。
一方で、「対流系」と呼ばれる、ハートやリーフなどのモチーフをもとに独創性を付加していくものも、シンプルなだけのものからスワンやフラワーなどを取り入れるなどして、オリジナリティを増していっている。今大会で上位に勝ち残った作品が、極端に偏ることがなかったことも印象的だった。
初日に行われたベスト32までのラテアートでは、多彩なモチーフやチャレンジも多数見られた
誰が勝ってもおかしくないベスト16
最終日12日(金)はベスト16からスタート。この時点で、前回大会の上位に入賞しながら敗退してしまったバリスタも多く、今大会のレベルの高さをうかがわせる。
そんな中で勝ち上がったベスト8は、日本が3名、タイが2名、韓国が1名、香港が1名、台湾が1名と、まさに国際的な大会と呼ぶにふさわしい各国のバリスタが出揃った。
ベスト8初戦の日本の村井謙太と台湾のCHEN KUAN YING(チェン クアンイン)の試合は、繊細なモチーフで挑んだ村井に対して、1杯目で納得がいかず作り直したチェンが表現力や美しさで勝利した。
ラテアート講師なども務めている村井は無念のベスト8敗退
続く韓国のJu Min Seong(チュ ミンソン)と香港のLu Fung Cheung(ルー フンチュン)は、どちらも動物モチーフでスピードもほぼ同時。難しい判定は、色の表現力や明確さなどで香港のルーが勝ち上がった。
トーナメントならではの戦いを見せてくれたチュ(左)とルー(奥)
ともに動物モチーフのチュ(左)とルー(右)のラテアート
3試合目はタイのシッティポン(Sittipong Yongsiri)と日本のジェームズ弥宇(ミウ)の対決。ともに対流系のリーフをベースとしたモチーフ。早々と仕上げたシッティポンに対して、2杯目まで使ったジェームズ弥宇が、準決勝に駒を進めた。
ラテアート強豪国であるタイのシッティポン(右)。会場のモニターでは描いている手元の様子も見られた
柔らかいローズのジェームズ弥宇(左)とシャープなリーフのシッティポン(右)のラテアート
そしてベスト8最後の試合は、ディフェンディングチャンピオンであるタイのキティピッチ・ブンサワッド(Kittipich Boonsawasd)と日本の坂口純の対決。一発で決めてきたキティピッチに対して、坂口は2杯を使って繊細なリーフを描いたが、一歩及ばなかった。
繊細な模様を鮮やかに描く坂口
キティピッチ(左)と坂口(右)のラテアート
ラテアート歴2年目の初挑戦者がチャンピオンに挑んだ準決勝
ベスト4は、台湾、香港、日本、タイという4カ国のバリスタ。その4人で準決勝と3位決定戦が行われる。
台湾のチェンと香港のルーの対決は、ここに来て非常に高い完成度を出してきたルーの勝利。
濃度の高いミルクで存在感のあるアートを描くルー
そして、日本のジェームズ弥宇はタイのキティピッチとの対決。モチーフの違いもあり、かなり早めに描き上げたジェームズ弥宇に対し、キティピッチは時間を使ってじっくり攻める。
ディフェンディングチャンピオンと大会初出場の挑戦者による注目の対決は、ジャッジをうならせる難しい判定となったものの、ほんのわずかな差でジェームズ弥宇が決勝進出を決めた。
じっくり焦らず準備するキティピッチ
明暗を分けた瞬間、思わずガッツポーズをとるジェームズ弥宇
この後、決勝戦の前に3位決定戦が行われ、キティピッチがチェンを破り3位を決めた。
キティピッチ(左)とチェン(右)のラテアート
そして迎えた決勝戦は、日本のジェームズ弥宇と香港のルーの対戦。どちらも優勝経験はなく、準決勝と同様に置き系と対流系の対決だ。
厳かなBGMの中で、3日間の集大成とも言える最後にして最高のアートが、2つのカップに描かれていく。
ほぼ同時にラテアートを描く、ジェームズ弥宇(左)とルー(右)
ジャッジも思わず苦笑い(?) どちらに軍配が上がるのか……
記念すべき10回目の大会で、史上2人目の日本人チャンピオンが誕生!
3日間にわたって64名が腕を競い合った「フリーポア・ラテアート・グランプリ 東京2024」の優勝者の発表は、表彰セレモニー内にて、日本ラテアート協会代表理事 上野登氏による勝者コールで行われた。
上野氏がその手を掲げた2024年チャンピオンは、日本のジェームズ弥宇! 日本人チャンピオンは2013年に開催された第1回大会以来、史上2人目の快挙だ。
ジェームズ弥宇には、優勝賞金30万円と、協賛企業各社から多数の副賞が贈呈された。CROWD ROASTERからは1〜3位までの副賞として、コロンビア エルパライソ農園のダブルアナエロビック10kgを1位に、ブラジル サン・ジョン・グランデ農園のブルボン5kgを2位に、コスタリカ オルティガ農園のカトゥーラ3kgを3位に、それぞれ贈呈した。
3位のキティピッチは敗れはしたものの、「また来年ここに出たいです」といつもの笑顔を見せた。
2位のルーは、「楽しかった。次も参加したい」とのコメントに「次は優勝?」と聞かれると「うーん」という表情を見せる。全力を尽くし勝敗はついたものの、会場からは暖かい拍手が贈られた。
2位のルー
そして優勝したジェームズ弥宇は「うれしいです! 3日間自分を信じ抜いて最後まで描けてよかった」と涙を見せた。
ラテアートわずか2年目での優勝については、「自信はずっとありました。自分を信じられるように練習してきたので、結果が出てよかったです」と、勝利のイメージをしっかり持った上で臨んでいたことを明かした。モチーフについては、彼女がバリスタとして活躍しているliwei coffee standのオーナーであるLiwei氏が、2023年の大阪大会で優勝したモチーフと同じだったと言い、「個人的にも、フレームを入れてのローズが好きなデザインだったので、その練習を頑張ってきました」と語った。
今後の目標については、「大阪大会にも出場できたらと思っています」とのこと。国内2大会制覇に向けて、まだまだ気を抜く時間はなさそうだ。
1位のジェームズ弥宇
節目の大会を経てますます盛り上がるラテアート・グランプリ
大会を主催した上野氏は今大会について、「『フリーポアー・ラテアート・グランプリ』の出場者64人は、誰が優勝してもおかしくないほどのクオリティはすでに持ち合わせています。年々その技術と正確さは向上しており、さらに技術や完成度を競い合う大会になっていたように感じました」と語った。
飲んでしまえばなくなってしまう一期一会のラテアートを、それぞれの感性で生み出すクリエイターたちの祭典は、コーヒーの知識がなくても誰もが楽しめるエンターテインメントになっている。
ただ、トレンドは日々陳腐化していくもの。SNSによる情報拡散で誰もが同じモチーフにチャレンジできるようになった現代では、フリーポア・ラテアートもまた、新たなモチーフや技術のトレンドがさらに求められるようになっていくだろう。
新たな時代の変化を感じた「フリーポア・ラテアートグランプリ」。次の大会で出会えるであろう、あっと驚くような斬新なラテアートが今から楽しみだ。
日本ラテアート協会