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スペシャルティのナチュラルプロセス【Coffee Fanatic 三神のディープコーヒーワールド 第10回】

 
こんにちは!!Coffee Fanatic三神です!!
 
前回からナチュラルの生産処理=Natural Processのお話に入ってきました。
 
ざっくりとしたワークフローの解説は一通り行いましたので、スペシャルティグレードでのナチュラルのお話を進めて行きたいと思います!!
 
シンプルながらも奥の深い生産処理であるナチュラルは、ワインで例えればさながら赤ワインに近いといえます。
 
旧来の業界ではコーヒーチェリーの果肉臭や発酵臭の類はご法度でしたが、近年ではむしろこういったフレーバーを積極的に活用していると言えますね!!
 
前回紹介したスペシャルティグレードのナチュラルのフローは以下の通りでしたが、本日はまず“非”発酵系に焦点を当ててみたいと思います!!

【スペシャルティにおけるナチュラルプロセス】

 


Specialty GradeのNatural Process

甘くてボディーがあり、濃厚な印象のあるナチュラルですが、生産処理における懸念材料は、①乾燥に時間がかかる、②最初に熟度選別を行わないと後半の工程で判別ができなくなる、の2点です。ただ、①の乾燥に時間がかかるのはどうしようもないので、②の熟度関係がとっても重要になっています。
 
 

【収穫】

 
ブラジルの以外の生産国では基本的にハンドピックを行うのですが、良いナチュラルを作るにはSelective Picking(セレクティブ・ピッキング=選別摘果)を行う事が何より重要です。収穫に当たっては地元の生産者コミュニティーや、中米全体を移動する期間労働者(インディオ系先住民)を雇用して行います。
 
熟練のピッカーだと一日に60kgくらいの実を収穫することができるのですが、Selective Pickingを行うと歩留まりが悪くなります。また熟度の判定をきちんとトレーニングした上で、割り増し賃金を払う必要があるので、実は最初からかなり大変な関門だったりします。
 
基本歩合制なので、収穫者はどうしても量をかさ増ししたくなります・・・・。これをしっかり監督して、きちんとした熟度をピックするようにトレーニングするのは骨ですねー・・・。裕福でちゃんとした農園だと、収穫者用にゴーグルや手袋を貸与するところもありますが、大体みんな素手で行っています。
 
ちなみに熟度の高いチェリーは力を籠めなくても簡単に横枝から外れます。その際、実の方には軸が全く残りません。逆に言うと赤実でも軸が残っている場合は熟度が完全ではないといえます。また色味に関しては濃い赤紫色が望ましいです。
こういった色味は中米などではCow Blood(カウ・ブラッド=牛の血)と言われており、収穫時の色味判定の目安にされています。
 
ブラジルの場合はそもそもハンドピック出来ないので、収穫機械の出力を落として、なるべく弱い力で外れやすい実=熟度が高い実を収穫できるようにします。


【比重選別】

 
収穫後の果実は水槽を使用することによって、比重選別を行います。ここで過熟果実や葉や枝などの夾雑物、生育不良果実などを除去します。一見赤黒く熟した実でも内部の生豆の生育が不十分であったり、虫食いが発生してしまうことがあります。
 
こういった欠点果実の類は水槽に放つと表面に浮き、重い果実は水より比重が重いので沈んでいきます。アフリカなどでは生産処理場でチェリーを受け渡す前に、必ず水槽を使用することがレギュレーションで義務づけられたりしています。
 
なお、ここで注意したいのは、熟度が低い青い実も比重が重いため、水槽の下の方に沈んでしまうことです。せっかく収穫しても青実をこの後の工程で除去していけばならないので結局、歩合給は悪くなります。なので、最初のピッキングが如何に大事かということになりますね。
 
ブラジルの場合は、ピニャレンセなどのサイフォンを利用したシステムで機械的に比重選別を行います。


【熟度選別】

 
比重選別を経たチェリー達は、今度は目視での熟度選別が行われます。アフリカだとチェリーを提出するデスクの近くにハンドピック様のパティオが併設されており、ここで生産者達が手作業で熟度の低い実をはじいていきます。
 
中米の場合だと生産処理設備の集積場でピッカーや作業員(農園内従業員)がハンドピックすることがあります。比重選別では重たい青い実は除去しきれないので、ここが最後の熟度判定の場になります。これ以降はドライミル工程まで選別の類はほぼ不可能になります。
 
ブラジルの場合は色差選別機を使用して熟度判定することがあります。
 

【サスペンデットパティオで乾燥】

 
普通のナチュラルはコンクリートパティオにそのまま放たれるのですが、スペシャルティグレードの場合は高床式の通気性の良い乾燥台で行われます。こうした乾燥台はアフリカで一般的であるため、通称African Bed(アフリカン・ベッド)とも言いますがSuspended Patio(サスペンデッド・パティオ)が正式な名称になっています。
 
コンクリートだとどうしても表面が高温になりがちなので、ちょっと乾燥が荒くなります。サスペンデッド・パティオでは網目上になっており、棚の上下で乾燥を行う事ができるので、効率が良く、また良いコンディションで行えます。さらに乾燥台の上部に日差しを設けたり(Shade)、ビニールハウスの様に乾燥台を覆ったり(Secadora=セカドーラ)、いろいろ工夫があります。
 
Suspended Patio(この農園の場合は下のビニールが網目になっていない)
 
ちなみにShadeを設けると日照を遮るため乾燥が長期化し、ビニールハウスのSecadoraだと高温多湿環境での乾燥となります。
 
ビニールハウスのSecadora(ここではWashedのパーチメントが乾燥されている)
 
できれば乾燥中も異常果実はハンドピックしたいのが山々なのですが、ご覧の通り、乾燥が進むとみんな黒くなってしまうので、ほぼ選別は不可能になってきます。
 
ブラジルの場合はまずロットが大きいので、サスペンデット・パティオを使って乾燥すること頃はほとんどないですね。ちょっとビニールで覆われてるくらいはありますが、基本コンクリートの地面乾燥になります。
 

【ドライミルでの脱穀】

 
乾燥が終わったチェリー達はそのままの状態でレスティング=休息が行われます。コーヒーの販売が確定して船積みが決まったら、その直前に脱穀を行い、最後の選別工程と輸出規格化であるグレーディングに入ります。
 
ナチュラルの場合はこの最後のDry Mill(ドライミル)選別がかなり重要になってきます。どれだけチェリーの状態で品質上の選別を行っても、結局実を割ってみるまでは中がどうなっているかわかりません。
また、除去された果肉は水洗式のパーチメントよりホコリやゴミが多くなるので、粉塵なども多く舞います。きちんとした管理をしないとホコリだらけ、シルバースキンだらけの生豆になってしまいます。
 
ドライミルでは傾斜のついた比重選別機を用いて最後の比重選別を行いますが、この時の傾斜具合や出力、そして排出口の位置(高い位置にあればあるほど思い生豆となる)によって品質が変わってきます。
 
ドライミルの比重選別機
 
最後は色差選別機(Satake社製とか)や最後の目視によるハンドピックで仕上げを行います。
 
・・・・・・・
 
以上がスペシャルティグレードにおけるナチュラルの作り方になります。
 
まあ、ぶっちゃけ、ここまできちんとした管理はなかなか大変なので、上記すべてを完璧に網羅するのは難しいでしょうが、コスタリカの“Black Pearl(黒真珠)”と形容されるナチュラルは上記で紹介した工程を丁寧に行っています。
 
シンプル、されど以外と大変なスペシャルティのナチュラルプロセス・・・・。
 
次回はさらにややこしい発酵系を取り上げて行きまーす!!
 
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それではみなさんごきげんよう。
 
 
2023.9.15
ファナティック三神
Ryo Mikami

Ryo Mikami

大学卒業後とある事情からスターバックスに勤めたことをきっかけにコーヒーの可能性に邂逅。紆余曲折を経てスペシャルティコーヒー専門商社に入社。Fanatic道に開眼し、相場考察、産地訪問、品評会審査、大会コーチ、抽出、焙煎、機器提案等コモディティーからスペシャルティまで多岐にわたる業務に通じ現在に至る。CROWD ROASTERアドバイザー。