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「日本のエスプレッソ文化を底上げしたい」日本ラテアート協会代表 上野登さんインタビュー(後編)

 
FBCインターナショナル代表、日本ラテアート協会代表理事の上野登さん。前編に続き、後編ではラテアートグランプリのお話と、未来のバリスタへのエールなどを伺いました。

日本人バリスタに足りないもの

----今年4月にはラテアートの世界大会「フリーポアーラテアートグランプリ東京2023」を開催されました。3年ぶりの開催となりましたが、改めて大会はいかがでしたか?

上野さん(以下敬称略):結果的にはタイ、韓国、台湾、日本という順位になりましたが、全体の印象としては、やはり韓国が頭一つ抜けています。以前から言っていた通り、台湾とタイがそれに続き、日本は、香港、ベトナム、マレーシアと同じグループという印象は変わりませんでした。

----日本の選手はもう少し頑張って欲しかったなというところでしょうか。

上野:そうですね。ラテアートは個人戦ではありますけど、韓国や台湾、タイはみんなチームとして動いていて、今回の大会3日間もそうでしたが普段から切磋琢磨して、身に着けたテクニックの情報交換もしています。そこに対しては、日本はまだ遅れをとっています。

----日本は個々の戦いになっているんですね。

上野:基本の技術の部分に少し差がついてしまっているように思います。世界チャンピオンの韓国人のアンポール バリスタに、セミナーで細かいリーフをカップにたくさん描いてほしいとリクエストしてお願いしたのですが、それができる人も日本では少ないです。

日本が4位に入ったことでそんなに離されていないと見る方もいますが、私は差が開いた3年間、という目で見ていました。
 

----技術の部分もそうですし、チームや選手、国々のコミュニティ、バリスタがお互い切磋琢磨するような部分が日本はまだまだということですね。

上野:澤田洋史バリスタが2008年のアメリカの大会で初めてチャンピオンになって以降、日本でラテアート熱が広まり、第1回の2014年にも日本人が優勝しましたが、その時はいわゆるミルクを流す「流し系」で、ミルクをのせて動物などを描く「のせる系」を日本人は排他的に見ていました。ミルクを流して一筆書きのように描くのがラテアートだとしていたんです。

でも、「のせる系」も「流す系」ができていないとできない。むしろワンランク上の技術なんですが、それを排他的に見て努力を怠っている間に、特に韓国と一気に差がついてしまったように思います。

若い子たちはもっといいものはいいとして、海外の大会にもどんどん行ってアウェーの環境でチャレンジしてほしいですね。

---技術に使われるのではなくて、きちんと自分が使うものにするという意識が日本では少ないかもしれないですね。

上野:例えば6オンス、8センチの直径のカップで、もう柄が出尽くしてしまってないって言う日本人の子がいるんです。アーティストだったら、年賀はがき1枚でも素晴らしいアートを描けるわけです。デッサンが下手でも、オリジナリティ、自分のシグネチャーデザインを作れる人が僕はアーティストだと思っています。

今回優勝したタイのキティピッチ バリスタも毎日動物園に通い、どういうモチーフが自分のラテアートになるか考えてたみたいですよ。

----毎日動物を見に行くというのはすごいですね。

上野:そこまでするのは、優勝賞金ももちろんありますけど、それよりも地元に帰り、東京で優勝したと報告したい思いがあるからです。現地の立派なカフェやホテルにはエスプレッソマシンがありますから、そこでチーフバリスタとして迎えられることにもつながる。そのあたりの意識の違いですよね。
 

----きちんと仕事にもつながるわけですね。

上野:それと、一番日本人に欠けているのは他と違うオリジナリティ。自分のシグネチャーを作るところではないでしょうか。

アートって「これ初めて見た」ですよね。今回も予選エントリーが400近くいましたが、みんな当然上手いです。その中で上手な方ではなく、「これ見たことないな」が一番先に印象に残ります。それがアートだと思うんです。何か写実性が優れてるとかそういったことではなく、現代アーティストの草間彌生さんにしても、アーティストってやっぱり他と違います。

だから僕一人で決めるわけにはいかないですが、大会やSNS等で発表した過去作品は本番ではできないようにするとか、そういうのも成長を促すためには一つの手だと思っています。

先ほどの世界チャンピオンのアンポール バリスタもヒントをくれています。

彼は銀河系一ラテアートが上手くて、今やなんでも上手に描けますが、彼が得意とするインディアンのデザインを考えたのが2011年で、その頃はクオリティも低いんです。でも2011年にこのデザインがいいと思い、描き始めてから、ダメなところをどんどん変えていったそうです。自分が一つモチーフでいいと思ったものがあったら、いきなりできるわけないのでチャレンジして、線を細かくしていくとかして完成させるわけです。

----どんどん洗練されていくんですね。

上野:若い子はデザインが出尽くしたと言いますが、それなら音楽で新曲が出てくるのはなぜでしょうか。確かに少し似てるフレーズがあったりもしますが、全くゼロから作るのではなく、組み合わせでもいいと思うんです。

----そういう話からすると、今回優勝したタイの彼が動物園に毎日通ったというのはすごく示唆的な話です。

上野:ちょっと歩いただけでも、花でもいっぱいありますよね。誰が見ても綺麗だと思うし、花をモチーフにして、最初は難しくても最後まで仕上げてみたらいいと思うんです。

バリスタ自身もアーティストたれ

 
----これから日本でのラテアートのレベルを向上するために、ラテアート協会としてもさらに力を入れていかなければいけないですね。

上野:日本は、自分たちのレベルが向上しきってると思っています。僕が技能認定試験をやろうと思ってる理由はそこなんです。

澤田洋史バリスタがトップになったのは事実ですが、日本人は先人がやったことを自分たちの実績のように思ってしまうところがあると思っていて、今でも俺たちがアジアで一番のラテアートアーティストだと思っている。

世の中の若いバリスタたちも国際的な意識を持ち、もう少し競争力を持ってほしいなと思います。

----技術を磨き、海外でも活躍して行ってほしいですね。

上野:世界は間違いなく進歩しています。

前回チャンピオンの韓国のローラ バリスタは異次元です。楽譜のようなスコアシートを作っていて、例えばロゼッタなら、ミルクを8オンスカップだと4周、上げてから1、2、3、1、2、3、振りながらカップを叩く1、2、3、4、5、6、7。このような感じで全部パターンがあり、振る回数が決まっているので、多少出来不出来はあってもシルエットは同じになります。

これまで日本人にはこんな考え方はありませんでした。これが今の世界のトップレベルです。
 

----バリスタはこれからどんなことをしていけばいいと考えますか?

上野:ラテアートの世界の日本人で言えば、「上野さんこれ見たことない?あります?」と、どんどん考える人が将来チャンピオンになるなと思います。アンポール バリスタも、最初に東京大会に来た時はそんなに上手くなかったですし、やっぱり大事なのはチャレンジ精神ですね。

例えば、丸い紙に絵を描いてみたり、そういうことから始めた方がいいです。四角い紙に描いてもいいです。それを丸くトリミングしたらどういう形でどこを入れたらいいのかと、海外の人はみんなそうやってアートを考えています。

そしてラテアートの技術だけではなく、感性も磨く。動物園に行く、個展を見に行く、上野の美術館に行くとか、いろんなアイデアが転がっていて、世界で受け入れられているアートがどういうものかわかると思います。

----やはり個性が必要だということですよね。

上野:例えば錦鯉でも1億円の値段がつくのものは、何よりもパッと見てあっすごい!と感じると思います。どれも中身は一緒なのになぜ何億もつくかと言えば、この色と色の組み合わせがこうで、赤の占める割合が~なんてことは後付けで、パッと見た時に美しいと思うからです。

ソールライター(アメリカの写真家)のニューヨークの雨の中の写真も、理屈ではないですよね。パッと見てかっこいいなって思う。

感性じゃないですか、アーティストって。だからラテアートをやる以上、何か感性を磨くことをしてほしいなと思いますね。
 

---今は生成AIなどもありますけど、そこの感覚は人間しかできないところですね。

上野:ラテアートを作る先に自分自身がアートになってほしいし、かっこつけてほしいです。

CROWD ROASTERの焙煎士もかっこいいですよね。韓国もタイも台湾も、みんなかっこつけてます。提供するのはラテアート。アートだから、自分自身もアートの対象となってほしいんです。

澤田バリスタも渋谷にSTREAMER COFFEEを展開して、今はシカゴにsawada coffeeを開店しましたが、彼のストイックな考え方が店作りなど全部に反映されています。彼自身がずっとニット帽を被っているのですが、それもスタイルなんです。お店の中にもスケボーを置いたりして、ストリートファッション系で固めています。

オシャレなカフェはいくらでもありますが、彼がやりたいのはそうじゃないと。sawada coffeeでもスタッフがみんなキャップを被ったり、澤田バリスタはニット帽だったり、いろいろですがかっこよくて、これが澤田スタイルなんです。こういう自分のスタイルを持ってほしいと思います。

----そこまで徹底してやるからこそ、世界でも受けるんですね。

上野:自分がこれで飯を食ってこうと思うのであれば、自分のスタイルを持つのもマーケティングの努力です。

先ほど言ったようにイタリアでは全自動の機械が描いてくれます。だからそこを目指してはしょうがないと思います。

自分の世界観を持ち、提供するのもラテアートという一つのアーティスティックなコーヒーです。飲んでしまえば柄がなくても一緒ですが、お客さんに出すと「美味しそう」「綺麗」と感動を与えられるのがラテアートですし、作る人はアーティストなんです。

僕は今30歳だとしたら、1年徹底的にラテアートやってやろうと思います。技術を磨いて、来年の東京大会で優勝して名を売り、スポンサーもつけてお店一本持たしてもらおうと、ラテアートで大家になってやろうと思います。そんなことを言うと、今の子はハングリー精神ないから……と言われますが、ある人はありますよね。

頑張り方としては、やっぱり美術館を見に行くとか、アートと言われるものを研究するのが一番だと思います。

何度も言いますが、提供するカップがラテアートなので、バリスタもアーティストであってほしい。僕が言いたいことはそういうところです。

ぜひみなさんには、自分のシグネチャーデザインを1個作り、技術を上げるだけではなく、自分のスタイルを作っていってほしいと思います。

----上野さんのラテアート、そしてバリスタに対する熱い想いが伝わってきました。
貴重なお話、ありがとうございました。


日本ラテアート協会
https://latteart.or.jp/