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Takeruの焙煎士飲み比べレビュー【SL28】ケニア ウォッシュト

CROWD ROASTERをローンチ初期から利用しているユーザーで、長くコーヒー関係の仕事をしていた「Takeru」のレビュー企画
今回は、「【SL28】ケニア キアマバラコーヒーファクトリー ウォッシュト」を豆ポレポレ 仲村良行さんと、RED POISON COFFEE ROASTERS 森藤友通さんのお二人の焙煎で飲み比べたレビューです!

ケニアのウォッシュトを飲み比べ

 
皆さん、こんにちは。
CROWD ROASTER ユーザーのTakeruです。
今回は「【SL28】ケニア キアマバラコーヒーファクトリー ウォッシュト」をお二人の焙煎士が仕上げたコーヒーを飲み比べしてみました。

この【SL28】は昨年のスペシャルティコーヒーの祭典「SCAJ 2022」のCROWD ROASTERブースにてお試しの生豆が配布されておりましたので、試されたことがある方も多いのではないでしょうか?

かくゆう私も、そこでこの銘柄を初めて試しました。
試してみるまでは正直な話、この銘柄にそこまで期待はしておりませんでした。
ただ、飲んでみるとケニアらしいワイルドで特徴的な味わいがするだけでなく、繊細かつ複雑な風味も兼ね備えた銘柄でしたので、焙煎士による仕上げ方の違いに差が生まれるのが面白く、今までに4〜5人の焙煎士にローストをお願いするまでに気に入った銘柄です。

この銘柄の名前にある「キアマバラコーヒーファクトリー」とは、フルーツの状態の「コーヒーチェリー」から種子を取り出し乾燥させて「生豆」の状態にする場所である「精選所(精製所)」の名前になりますね。

ムガガ農協という農協がこの精選所を運営し、近隣の小規模農家が自宅の周辺で栽培したチェリーをそこへ持ち込んで生産処理を行っているようです。

因みにですが、このコーヒーチェリーから生豆の状態にする工程のことを「精選方法」と呼んだり「精製方法」「生産処理」「プロセス」...などと日本では呼んだりしています。

生産処理やプロセスは何となくイメージしやすいかとは思いますが、「精選」や「精製」はコーヒー以外ではあまり聞き馴染みのない言葉ですよね。
意味を調べてみますと、

精選:多くの中から良いものをよりすぐること。えりぬき。
精製:まじりものを除いて、純良なものをつくりあげること。
※「デジタル大辞泉」より

とあります。
最近ではアナエロビック(嫌気性発酵)などの流行によってこの工程で「コーヒーの味わいを作る」というイメージを持たれる方も多いかと思いますが、もちろんそれは正しいのですがそれだけではなくて、良いコーヒー豆を「選別する」という重要な過程でもあります。

この【SL28】でも行われているウォッシュトプロセスの工程を分解すると、

1.    まず実を収穫(グレードによっては完熟した実のみをハンドピック)
2.  (農園やグレードによるが)収穫した実を目視で選別
3.    水に浮かべ熟度を選別(熟度が高く比重の重たいものは沈み、軽いものは浮く)
4.    パルピングと呼ばれるチェリーの実(パルプ)を取る工程
5.    種子の周りのミュージレージと呼ばれる粘液質を取るため、水に浸して微生物に分解させる(もしくは種子同士を機械によって擦り合わせて除去する方法もある)
6.    水でパーチメントコーヒー(殻に覆われた種子)を綺麗に洗う
7.    乾燥機、もしくは天日による乾燥
8.    キュアリングと呼ばれる2カ月前後、一定の気温/湿度の環境に生豆を保管して休ませる工程
9.    種子の周りにあるパーチメントと呼ばれる殻を脱穀
10.    スクリーンサイズ(豆の大きさ)による選別
11.    密度(比重)選別
12.    機械による選別
13.  (買い付けるグレードによるが)人の手による選別

上記のようないくつもの工程を経ています。
見ていただけると分かるかと思いますが、半分くらいの工程の中で「選別」が行われていますよね。
乾燥までの工程ばかりが注目されますが、後半の選別中心の工程も含めて「精選」もしくは「精製」となりますので、より良いものを選別するその言葉の意味がしっくりくるかと思います。

話を戻しますが、ケニアでは上記のような通常のウォッシュトプロセスと比べて、少し変わった工程を間に挟むことがあります。
それが「ソーキング」と呼ばれる方法です。
上記の「5」でミューシレージを水に浸けて分解した後、再度「綺麗な水」に一晩ほど浸けるという工程です。
この工程によりケニアらしい綺麗な酸が表現されたり、クリーンカップに繋がっている、と考えられているようです。

さて、前置きが長くなりましたが、まずはそれぞれの豆面から見ていきましょう。

豆ポレポレ 仲村良行さん焙煎(左)、RED POISON COFFEE ROASTERS 森藤友通さん焙煎(右)

左側の「豆ポレポレ 仲村良行」さん焙煎は「ミディアムロースト」。
右側の「RED POISON COFFEE ROASERS 森藤友通」さん焙煎は「シナモンロースト」。

写真では分かりにくいですが豆ポレポレ 仲村さん焙煎の方が少し豆が膨らんでいて、少しだけ油が浮いているのも確認できます。

袋を開けた時の香りからはっきりと違いが感じられますので、早速飲んでいきたいと思います。

豆ポレポレ 仲村良行さん焙煎

 
まずは豆ポレポレ 仲村良行さん焙煎の【SL28】から頂きたいと思います。
毎度同じにはなりますが、ペーパードリップでMellitaのドリッパーを使用して、粗く挽いた14gのコーヒー豆に対して140mlのコーヒーを抽出していきたいと思います。

ある程度、どの焙煎豆もバランス良く抽出できるので重宝してる淹れ方です。
今回は少し太めにも注げるよう、KalitaのWaveポットで注いでいきます。

 
テイスティングは丸い口当たりが感じられやすくなるよう、やや口が厚めのカップで。
それでは頂きます。

緑茶のような爽やかなグリーンの香りとライムのような柑橘フルーツを思わせる酸味。
それでいて全体的に穏やかなトーンで、カカオやローストアーモンドのような香ばしさも感じられるバランスの良さを感じます。

浅めの焙煎だとケニアの豆の多くは真っ直ぐで主張的な酸味が感じられることが多く、その酸味はとても好き嫌いが別れやすい項目だと思います。

ただ、このミディアムローストの仲村さん焙煎の【SL28】は、そういった快活な酸味を感じられる明るいトーンというよりは、コーヒーと聞いてイメージされやすい穏やかなトーンの味わいの中に、適度な爽やかさや味わいの広がりを感じさせてくれるとても心地の良い酸味です。

それでいて苦味がシャープというわけでもなく、柔らかく、適度に口内を刺激してくれる心地良い苦味を感じられます。

冷めるにつれてカカオの印象はそのままに、緑茶というよりはタイムなどのハーブのような印象や、少しカシスのような印象に変わってきました。

冷めてからも酸味の印象が強くなってくるわけではなく、終始飲みやすく、それでいてケニアらしい特徴的な香りや味わいが感じられるとても美味しいコーヒーでした。

RED POISON COFFEE ROASTERS 森藤友通さん焙煎

 
それではお次は、RED POISON COFFEE ROASTERS 森藤友通さん焙煎の【SL28】を頂きたいと思います。
抽出方法は同じで。
テイスティング方法はワイングラスで頂きます。

 
明るいブラッドオレンジのようなジューシーな酸味を感じながら、繊細で優しいアタック。
次第にカシスのような印象やキャンディのような甘みを感じられます。

余韻がとても甘いです。
本当に水飴などを食べた後のような甘い余韻。
それでいて本当のキャンディのように残りすぎない。
少しずつ甘さの余韻が離れていき、すっきりとした心地良さだけが残ります。

前述の通り、オレンジやカシスのようなフルーツの印象がとてもしっかり感じられますが、よく敬遠されるようなシャープな酸味ではなく、先端は丸く、かつ厚みがあるようなジューシーな酸味に感じられます。

おそらくこの質感の酸味だからこそ唾液が分泌されやすくなり、すっきりとした余韻に繋がっているのでしょう。
口に含んだときはフレッシュなフルーツのようですが、余韻はフルーツ飴を食べた後のように感じられるのがとても面白いです。

冷めるにつれて、少しアプリコットのような印象に変わってきました。
甘さの印象はそのままですね。
オレンジ飴からアプリコット飴に変わったような印象です。

この森藤さん焙煎の【SL28】の甘い印象は焙煎が少し深めのコーヒー豆から感じられる甘みとは異なる印象で、あまり深くはしていない焙煎度合いだからこその甘さだと思います。

「甘いコーヒー」 = 「焙煎が深めでかつ濃厚で分厚い口当たりのコーヒー」とイメージされる方もいらっしゃるかとは思いますが、この浅煎り〜中煎り付近の甘さの印象もとても心地良く、個人的にはとても大好きです。
もし、浅めの焙煎のコーヒーにあまり甘い印象を感じたことがないという方には一度このコーヒーを飲んでみていただきたいですね。

繊細ながらも明るくフルーティで、とても甘いコーヒーでした。

飲み比べを終えて

 
今回は【SL28】をお二人の焙煎士が仕上げた異なる焙煎度合いのコーヒーを頂きました。
焙煎方法や焙煎環境、焙煎度合い、焙煎日など、原料である生豆以外は全て異なる焙煎豆ですが、どちらも柑橘類のフルーツやカシスのような印象が共通して感じられました。

また、これはおそらく仕上げ方によるものですが、どちらのコーヒーもよく敬遠されるようなシャープでかつ主張的な質感の酸味ではなく、上手くアクセントとしてコーヒーをまとめてくれるような心地の良い質感の酸味で、温かいときから冷めてまで、一貫して楽しむことができました。
 
今回のコーヒー豆の焙煎日と抽出日(記事のレビューを書いた日)は以下の通りです。
●豆ポレポレ 仲村さん焙煎
焙煎日:2023/04/01 抽出日:2023/05/13 エイジング:42日
●RED POISON COFFEE ROASTERS 森藤さん焙煎
焙煎日:2023/04/29 抽出日:2023/05/28 エイジング:29日

どちらも1カ月前後、コーヒー用に使用しているセラーで寝かせました。
これはあくまで個人の嗜好やコーヒー豆の保管環境、抽出方法などによってもベストと感じるタイミングは変わってきますので、あくまで参考程度にしてください。

また、今回も上記のような味わいを必ず楽しめることを保証したレビューではありませんが、皆さんのコーヒーライフに少しでも参考になれば幸いです。
抽出するタイミングや抽出方法によって、様々な味わいが感じられそうなポテンシャルを感じられるコーヒー豆なので、是非自分好みの味わいを探してみてください。

それでは、今回はこの辺で。
皆さんのコーヒーライフに良いコーヒーがあらんことを。
 
2023.5.28
Takeru