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「シェードツリー」とコーヒーの栽培環境

コーヒーの栽培についての説明で「シェードツリー」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

アラビカ種のコーヒーノキは、原産地のエチオピアでは森の中の日陰で生育していました。こうした日陰をつくってくれる木々をシェードツリーと呼びます。
コーヒー栽培でも、自然の環境にならってシェードツリーを用いることがあるのです。
 
パナマのコトワ農園のコーヒー栽培。周囲に500本以上の果樹を植林し、水の利用を抑制、手つかずの森を保護するなど、環境への配慮にはとくに力を入れている

アラビカ種のコーヒーノキは、そこまで日照を必要としないという特徴を持ちます。
ただし、ある程度の日照は必要です。ある一定の日照量までは、コーヒーの収量も増えるとされています。

強い直射日光を避けるという意味で、このシェードツリーが利用されます。
他にも、強風からコーヒーノキを守る、霜害から守る、土壌の栄養を保持して改善する、といった効果があるとされています。

よくシェードツリーとして用いられるのが、マメ科の木。適度に日差しを通し、水分も過度に必要とせず、落ちた葉などが肥料となるという点からです。
もちろんそれぞれの栽培環境が異なるので、マメ科の木がどこでも適切というわけではありません。
バナナなどをシェードツリーとして栽培している地域もあります。

もともとの生育環境であった、森の中のような環境を再現することで、実が大きくなり、熟度のバラツキが減る、さらに木の寿命が増えるといった効果があり、コーヒー豆の品質にもいい効果があるとされます。

栽培環境の保護

コーヒーノキの栽培は、人の手によって移植された場所で行われていることがほとんどです。
そのため、生産地ごとにさまざまな環境で栽培が行われています。

近年では、栽培地(農地)の周辺環境の保護といった観点がフォーカスがされることも多く、できるだけ自然環境を壊さずに、コーヒー栽培を行う取り組みが注目されています。

こうした環境は、生物の多様性の保護にもつながり、地域全体の環境にもプラスになるとされています。
 
森林の中に農園を構えるパナマのハートマン農園。エコツアーも行っている
 
しかし、こうした取り組みが可能な栽培地ばかりではありません。
古い時代に開拓された場所であったり、他の用途に使われていた農地であったりということもあります。

また、栽培品種によっては日照に強いものや、自らの葉で日陰を作ることが可能なものもあります。
特に栽培用に品種改良されたものに、そうした品種があります。

最終的なコーヒー豆の品質という観点では、栽培品種にあった栽培環境で適切に栽培することが必要であり、必ずしも「シェードツリー」が必要なわけではないのです。

ちなみに、そもそも霧などの気象条件で日照が多くない、風通しが悪く過湿状態になるとカビが発生しやすい、収穫作業に適さないといった理由で、シェードツリーを用いないこともあります。
 
同じハートマン家の農園であるグアルモ農園ではその環境からシェードツリーは用いられていない

多くの地域に広がったコーヒーノキの栽培

18世紀ごろに多くの栽培地にコーヒーが伝えられてから既に200年以上の時間が経ち、さまざまな栽培環境に適応する品種がつくられてきました。

一般に「コーヒーベルト」といわれる、熱帯地域ならどこでもアラビカ種のコーヒーノキが栽培できる、というわけではありません。

しかし、今では原生の森の中よりは多少環境が違った場所でも生育可能な品種も多く、「原種」といわれる原生種に近いものであれば、森の中のような環境で栽培すべきとなるわけですが、人の手で長く栽培されてきたコーヒーノキは、徐々に生育場所を広げてきたという見方もできます。
 
比較的低地に広がるブラジルの農園では、効率の面からもシェードツリーが用いられることはほとんどない

また、栽培に関しては地域環境を守るという取り組みは大切ですが、「シェードツリー」を用いて森のような環境だけが、地域環境を守る取り組みではありません。

さまざまな生産者が、それぞれの地域や実情にあった取り組みをしていますので、それぞれの農園や生産者の取り組みを知ることが大切なのではないでしょうか。
 
 
2024.1.13
CROWD ROASTER