日々の焙煎が日本チャンピオンへとつながる道【大貫健晴 焙煎士インタビュー】
MOOD COFFEE & ESPRESSO(茨城県水戸市)大貫健晴さんインタビュー

CROWD ROASTERに新たなチャンピオンが加入する。
2024年のジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップで、見事初出場・初優勝を飾った、大貫健晴さんだ。
日本の焙煎界に彗星の如く現れた大貫さん。そのパーソナリティを探るべく、インタビューを行った。
日本の焙煎界に彗星の如く現れた大貫さん。そのパーソナリティを探るべく、インタビューを行った。

JR水戸駅から徒歩10分、水戸市南町のビル1階に「MOOD COFFEE & ESPRESSO」はある。ガラス張りの店内にはフジローヤルの3kg焙煎機が置かれ、ミッドセンチュリー風のインテリアで飾られた、夫婦二人で営む小さなロースタリーだ。
この小さなコーヒーショップを営む大貫健晴さんは、2024年のJCRC(ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ)で初出場・初優勝という快挙を成し遂げた。そして2025年の豊潤富士カップ国際焙煎大会日本予選会でも準優勝を獲得。日本のトップロースターとしての実力を証明した。

店主であり、焙煎士の大貫さんは、競技会のために特別な焙煎をするのではなく、日々店舗で提供している焙煎をそのまま競技会に持ち込んだ。「店舗での焙煎が本当においしいのかを確かめたかった」——その思いから挑んだ競技会で、大貫さんの焙煎は最高の評価を受けることになる。
サッカー少年からコーヒーの世界へ
コーヒーとは無縁だった大貫さんがこの世界に足を踏み入れたのは、偶然の出会いからだった。
「小学校から大学まで、ずっとサッカー漬けでした。大学卒業後は一度就職したんですがまったく自分に合わない職場で辞めて。建築に興味があったので、東京の専門学校に通うことにしたんです」
「小学校から大学まで、ずっとサッカー漬けでした。大学卒業後は一度就職したんですがまったく自分に合わない職場で辞めて。建築に興味があったので、東京の専門学校に通うことにしたんです」

専門学校に通う2年間、アルバイトとしてたまたま入ったのがスターバックスだった。家族もコーヒーを飲む習慣がなく、学生時代も縁がなかったコーヒー。しかし、働くうちにその奥深さに魅了されていく。
「スターバックスでアルバイトを続けながら、デザイン事務所に入ったんですが、ダブルワークをするうちに、コーヒーの方が面白いなと思い始めたんです。25歳くらいの時に、天秤にかけた結果、コーヒーの道に進もうと決めました」
焙煎への興味と「リトルダーリンコーヒー」での修行

コーヒーに本格的に関わるなら、焙煎も自分で。——そう考えた大貫さんは、焙煎機メーカーである富士珈機のサンプル焙煎機「ディスカバリー」の時間貸しに通い始める。
興味本位で焙煎の世界に触れているうちに、東京・青山にオープンする「Little Darling Coffee Roasters」のオープニングスタッフの話が舞い込んできた。
「焙煎がやりたいと伝えて入社しました。そこで3年間、焙煎業務を中心にやらせてもらいました」
「焙煎がやりたいと伝えて入社しました。そこで3年間、焙煎業務を中心にやらせてもらいました」
Little Darling Coffee Roastersでは、決まったプロファイルで焙煎を繰り返す日々。ミディアムローストやシティローストがメインのラインナップだったが、いろいろなコーヒーを飲むうちに、自分の好みは浅煎りの方にあることに気づいていった。
「もっと自分がやりたい焙煎をしたいと思っていたところに、コロナウィルスが流行。もともとスターバックスの時に出会った妻と、自分たちでコーヒー屋をやろうという話をしていたので、この状況もひとつのきっかけだと考え、水戸に戻って店を出すことにしました」
2人だけの小さな店から始まった挑戦

2021年11月、大貫さんは水戸市に「MOOD COFFEE & ESPRESSO」をオープンさせた。最初から自家焙煎で、浅煎り・中浅煎りをメインにしたラインナップ。当初は「深煎りはないの?」と言われることもよくあった。茨城にはサザコーヒーという地域に根ざした有名ロースターがあり、深煎りコーヒーの文化が育っていた。
「サザコーヒーさんが深めの焙煎を得意としているので、同じ土俵に立たずに、隙間産業でやろうと思いました」
コンセプトを決めて始めたわけではなく、2人でやりたいことをやる——そんなスタンスでスタートした店は、徐々に今のスタイルになっていった。
「サザコーヒーさんが深めの焙煎を得意としているので、同じ土俵に立たずに、隙間産業でやろうと思いました」
コンセプトを決めて始めたわけではなく、2人でやりたいことをやる——そんなスタンスでスタートした店は、徐々に今のスタイルになっていった。

そして、大貫さんの焙煎スタイルも他とは明らかに違う特徴を持つようになっていった。焙煎時間が圧倒的に短くなっていったのだ。
「短いと4分半くらいです。最初は一般的な8分、9分くらいで焼いていたんですが、カップを基準として目指す方向性を突き詰めていくと、どんどん短くなっていって、大体5〜6分の焙煎に落ち着きました」
半熱風式のフジローヤルで、一般的ではない焙煎方法。店に来てくれるお客さんは「おいしい」と言ってくれるが、それが本当においしいのか——その答えを求めて、大貫さんは競技会への挑戦を決意する。
「店舗の味」を競技会で証明する

2024年、大貫さんは初めてJCRCに参加した。それまで競技会は「違う世界」だと思っていたが、自分たちの焙煎がどう評価されるのかを知りたかった。
「競技会のための焙煎ではなく、店舗で出している焙煎に近づけて、それをどう評価してもらえるかというところに注力しました。僕が参加している意味はそこだと思ったんです」
競技会で使用するのは、店舗のフジローヤルとは異なるストロングホールド。しかし、大貫さんは店舗での焙煎アプローチを貫いた。予選は6分20秒、決勝は7分程度の短時間焙煎で臨む。
「店にある焙煎機で練習して、店の味にどれだけ近づけられるか。それだけを考えました」
「競技会のための焙煎ではなく、店舗で出している焙煎に近づけて、それをどう評価してもらえるかというところに注力しました。僕が参加している意味はそこだと思ったんです」
競技会で使用するのは、店舗のフジローヤルとは異なるストロングホールド。しかし、大貫さんは店舗での焙煎アプローチを貫いた。予選は6分20秒、決勝は7分程度の短時間焙煎で臨む。
「店にある焙煎機で練習して、店の味にどれだけ近づけられるか。それだけを考えました」
予選を突破した大貫さん。他の決勝進出者5人は有名店のロースターら、錚々たるメンバーだった。正直、決勝に残れただけで十分だと思っていたという。
「優勝を狙っているわけではありませんでした。(優勝すると派遣される)世界大会に挑戦できるような資金力もないですし、個人店より、ちゃんとした地盤がある方が相応しいと思っていました。決勝に残れただけで、自分たちの焙煎が評価されたと思っていたんです」
しかし、結果は見事、優勝。自分たちがやってきたことが間違いではなかったと証明された瞬間だった。

「音」で判断する焙煎
大貫さんの焙煎の最大の特徴は、その短さだけではない。焙煎中の判断基準にも独自のスタイルがある。
「時間も温度もあまり見ません。テストスプーンも1回くらいで、ほぼ抜かないんです。できるだけ変数を減らして、再現性が高い焙煎を心がけています」
では、何を基準に判断しているのか。優勝後、多くの人に聞かれるようになって言語化できるようになったのが、「豆の回転音」だという。
「投入直後は豆が硬い状態なので、ドラムの中で回っている音が強め。それが柔らかくなって音が鈍くなってきたら火力を落とし、爆ぜる直前にまた高い音に変わっていくので、そこでまた火力を落とす。音で判断しているんです」
「時間も温度もあまり見ません。テストスプーンも1回くらいで、ほぼ抜かないんです。できるだけ変数を減らして、再現性が高い焙煎を心がけています」
では、何を基準に判断しているのか。優勝後、多くの人に聞かれるようになって言語化できるようになったのが、「豆の回転音」だという。
「投入直後は豆が硬い状態なので、ドラムの中で回っている音が強め。それが柔らかくなって音が鈍くなってきたら火力を落とし、爆ぜる直前にまた高い音に変わっていくので、そこでまた火力を落とす。音で判断しているんです」
最初から最大火力を当て、豆の状態の変化を音で感じ取りながら、徐々に火力を落としていく。感覚的なところも多く、他の人が再現できるものではない。この方法こそが大貫さんの焙煎の核心だ。

「大会で使ったストロングホールドも音は拾いやすいです。特にS7Xはテストスプーンを抜くと釜の中の状態が一気に変わってしまう繊細な焙煎機。スプーンを抜かない焙煎の方が再現しやすいですね」
パブリックカッピングで磨かれた味
大貫さんの焙煎を形作ってきたもう一つの要素が、毎週土曜日の朝に店で開催しているパブリックカッピングだ。オープン当初から続けており、現在は毎週15人ほどが参加している。
「お客さんの意見をもっと聞きたいと思って始めました。基本的には一般の方が参加してくれています。今ではプロとしてコーヒーを焙煎している人も来ますが、一般のお客さんからの目線で意見を聞けるのがありがたいですね」
「お客さんの意見をもっと聞きたいと思って始めました。基本的には一般の方が参加してくれています。今ではプロとしてコーヒーを焙煎している人も来ますが、一般のお客さんからの目線で意見を聞けるのがありがたいですね」

大貫さんは、自身はコーヒーの資格もなく、農園に行ったこともないし、自分が特別に味を取れるというよりも、焙煎の動作の再現性が高いだけだと謙遜する。
「味自体は妻の方が取れます。僕が焼いた豆に対して妻やお客さんの意見を聞きながら、今の方向性になりました」
来店するお客さんや身近な人たちとの対話を大切にしながら、店のスタイルを築いてきた。オープンして4年目を迎えた今では、浅煎りの店として認識されるようになったという。
優勝がもたらした新しいつながり

JCRC優勝後、大貫さんの世界は大きく広がった。決勝で一緒だったCROWD ROASTER焙煎士の岩崎裕也さん(元タカムラコーヒー)との交流が始まり、世界大会では、やはりCROWD ROASTERアドバイザーの三神亮さんにコーチをお願いすることになった。
「決勝の時は岩崎さんに怖くて近寄れなかったですけど、今ではいろんな情報を共有しています。今まで面識もなかった業界のトップの方々と知り合えたのは大きいですね。この1年でだいぶ見える世界が変わりました」
注目されることは得意ではないが、今まで自分たちのことを知らなかった人に知ってもらえたのは素直にうれしいという。そして、CROWD ROASTERへの参加も、岩崎さんとのライブ配信で視聴者から、CROWD ROASTERに入らないんですかという質問があったことがきっかけだった。
「僕なんかが入るのは恐れ多いなと思いますが、小さい店で焼けるコーヒーには限界もあるので、いろいろ挑戦させてもらえるのはすごくいい経験になると思います」
「決勝の時は岩崎さんに怖くて近寄れなかったですけど、今ではいろんな情報を共有しています。今まで面識もなかった業界のトップの方々と知り合えたのは大きいですね。この1年でだいぶ見える世界が変わりました」
注目されることは得意ではないが、今まで自分たちのことを知らなかった人に知ってもらえたのは素直にうれしいという。そして、CROWD ROASTERへの参加も、岩崎さんとのライブ配信で視聴者から、CROWD ROASTERに入らないんですかという質問があったことがきっかけだった。
「僕なんかが入るのは恐れ多いなと思いますが、小さい店で焼けるコーヒーには限界もあるので、いろいろ挑戦させてもらえるのはすごくいい経験になると思います」
変わらない姿勢、変わらない味

日本チャンピオンとなっても、大貫さんのスタンスは変わらない。
「優勝したからといって何かを変えるわけではなく、今まで通り、今の店の焙煎をやっていく。それを知ってほしいだけです。僕たちが美味しいと思うものをやるだけ」
競技会だからといって特別なことはしない。積み重ねてきたものをそのままやるだけ。その姿勢が、大貫さんらしさなのだろう。
サッカー少年だった頃から、自分のペースで物事を進めることが得意だったという。ガチガチに追求するタイプではなく、いろいろな人の意見を聞きながら、自分の軸を持ちつつ柔軟に変化していく。
「僕はそういう人間なので。自分の軸はあるんですけど、いろんな人の意見を聞けるのが強みなのかなと思います」
水戸という地方都市で、夫婦二人で営む小さなロースタリー。しかし、そこで生まれるコーヒーは、日本トップとして認められた。そして、CROWD ROASTERを通じて、その味を全国のコーヒーラバーに届けられることを、大貫さんは楽しみにしている。
「今まで自分たちのことを知らなかったお客さんに、この味を知ってもらう機会になればいいですね」
競技会でも日常でも変わらない焙煎とおいしさ。その一貫性こそが、MOOD COFFEE & ESPRESSO、そして大貫さんの魅力なのだ。
「優勝したからといって何かを変えるわけではなく、今まで通り、今の店の焙煎をやっていく。それを知ってほしいだけです。僕たちが美味しいと思うものをやるだけ」
競技会だからといって特別なことはしない。積み重ねてきたものをそのままやるだけ。その姿勢が、大貫さんらしさなのだろう。
サッカー少年だった頃から、自分のペースで物事を進めることが得意だったという。ガチガチに追求するタイプではなく、いろいろな人の意見を聞きながら、自分の軸を持ちつつ柔軟に変化していく。
「僕はそういう人間なので。自分の軸はあるんですけど、いろんな人の意見を聞けるのが強みなのかなと思います」
水戸という地方都市で、夫婦二人で営む小さなロースタリー。しかし、そこで生まれるコーヒーは、日本トップとして認められた。そして、CROWD ROASTERを通じて、その味を全国のコーヒーラバーに届けられることを、大貫さんは楽しみにしている。
「今まで自分たちのことを知らなかったお客さんに、この味を知ってもらう機会になればいいですね」
競技会でも日常でも変わらない焙煎とおいしさ。その一貫性こそが、MOOD COFFEE & ESPRESSO、そして大貫さんの魅力なのだ。
そんな大貫さんのローストイベントがいよいよスタート!
ご自身も得意だという、ケニアのローストイベント。
日本チャンピオンのケニアをお楽しみに。

■Profile
焙煎士 大貫 健晴 さん
茨城県出身。小学校から大学までサッカーに打ち込み、アルバイトで入ったスターバックスでコーヒーの魅力に目覚める。東京・南青山の「Little Darling Coffee Roasters」で3年間修行を積んだのち、2021年11月に水戸市で「MOOD COFFEE & ESPRESSO」をオープン。2024年のJCRC(ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ)で初出場・初優勝、2025年の豊潤富士カップ国際焙煎大会日本予選会で準優勝を獲得。短時間焙煎を特徴とする独自のスタイルで、日本のトップロースターとしての地位を確立した。
■Shop Information
MOOD COFFEE & ESPRESSO
茨城県水戸市南町2-4-58 常磐ビル 1F
営業時間: 平日 8:00〜18:00、土日祝 10:00〜18:00
定休日: 水曜日
営業時間: 平日 8:00〜18:00、土日祝 10:00〜18:00
定休日: 水曜日












