STORY

2年連続優勝・Surf Coffeeが語る、コーヒーと旅と東京のステージ(レポート後編)

前編では、バリスタリーグを作る側──主催者Vasileia Fanariotiと審査員たちの言葉を通して、このイベントの理念と進化を伝えた。後編は、ステージに立った競技者たちの物語だ。

2年連続でこのコンペを制したSurf Coffee(Kirill Gorelov&Vasilina Levina)。Kurasuのバリスタたちが組んだTHE FLOATERS(Angelo Tan&Kai Peterson)。鹿児島から初出場のTHE VOLCANO BROTHERS(Ken Sakashita&Mutsumi Kodama)。それぞれが違う理由でこのステージを選び、違う何かを持ち帰った。

「お召し上がりください」、Surf Coffeeが再び東京のステージへ

昨年の初開催でチャンピオンに輝いたSurf Coffee。ロシア出身のKirill Gorelov&Vasilina Levinaは今年も東京のステージに戻り、2年連続優勝を果たした。


昨年は日本語でプレゼンテーションを行ったSurf Coffeeが、今年は英語を選んだ。理由はシンプルだ。

「今年は全ての審査員が日本語を話すわけではないとわかったので、審査員の方々が快適に聞けるよう英語にしました。去年は英語が話せない審査員の方がいたので日本語でやったんですが、今年は審査員のことを考えて英語を選びました」

ただ、一言だけは日本語にこだわった。

「『お召し上がりください』だけは言いたかったんです(笑)。ここは東京ですし、小さな一言ですが、『私たちは今、東京にいて、東京のお客さんのためにドリンクを作っている』という気持ちを示せる大切な言葉でした」


2年続けて出場しているからこそ、大会の変化も明確に語れる。今年の最大の変更点はルール面だ。「以前はカップテスティングのラウンドがありましたが、今年はプレゼンテーションのみになりました」とKirillが言えば、Vasilinaがこう続ける。

「全体的にルールがより整備されて、構造化された印象を受けました。何をすべきで何をすべきでないかが明確になりましたね。前回と今回を比べると、バリスタリーグが大会として大きく成長しているのを感じます」

ライブ配信への評価も高い。「昨年は友人たちが自分たちで映像を撮ってくれていただけでしたから。今年はプロの制作チームとライブ配信があって、本当に素晴らしかった。去年は準備の指示やルールが不十分で、今年はそれがしっかり整えられて競技者がより良いプレゼンテーションを作れるようになった。バリスタリーグの運営チームには本当に感謝しています」

優勝の先にあったもの、コーヒーが世界をつないだ1年

昨年の優勝後、Surf Coffeeの1年はどんなものだったか。

東京・浅草橋のdotcom coffeeでのゲストシフト、ソウルのHitch Bicycle Club Coffeeへの出張──バリスタリーグで生まれたつながりが、新しい仕事へと広がった。「優勝したことで『自分たちは何者でどんなことをしているか』がお客さんに伝わりやすくなりましたね。優勝がきっかけで、面白いプロジェクトを実現できるようになっています」

そして、バリスタリーグの副賞として実現したメキシコのコーヒー農園訪問が、コーヒーへの向き合い方を根本から変えた。

「夢が叶いました。コーヒーの産地に一度も行ったことがなかったので、ずっと夢だったんです。実際に目で見てコーヒーの生産工程の全てのステップを体験すると、この一杯がどれだけ多くの人の大変な仕事の積み重ねなのかを実感しました。毎日その仕事をしている人たちを見て、本当に胸がいっぱいになりました。うまく言葉にできないんですが…」


Vasilinaも言葉を添える。「バリスタリーグのチームには、このイベントと副賞に本当に感謝しています。メキシコは美しい人々と美しい国でした」

「おいしい料理に、おいしいコーヒーも! メキシコで地元のコーヒーをたくさん試しました。国内チャンピオンとも出会えて、ゲストシフトでドリンクを作ってもらったりもしました。バリスタリーグがつないでくれた縁ですね」とKirillも続ける。
「本当に世界中がコーヒーでつながっているんだと、身をもって感じました」

その体験が、コーヒーというものへの言葉を変えた。

「もっと多くの人にコーヒーを楽しんでほしいし、コーヒーに敬意を払ってほしいです。コーヒーが一杯のカップに届くまでに、どれだけ多くの人がどれだけの労力をかけているか、もっと多くの人に知ってもらいたいです。これからも、コーヒーをプロダクトとして楽しんでもらいながら、その背景にあるものへの敬意も広まっていってほしいと思います」

インタビューの最後に「また来年も来てもらえそうですか?」と聞いた。Kirillの答えは即答だった。

「もう考えています(笑)。伝統になりつつありますね」

THE FLOATERS、バリスタスキルに本当に集中できた場所

Kurasu所属のAngelo Tan&Kai Petersonが組んだTHE FLOATERS。Kaiにとっては、ステージで行う本格的な競技会はこれが初めての経験だった。
 

「本当に素晴らしい経験でした。自分と同じように一所懸命に取り組んでいる素晴らしいバリスタたちと一緒にいられるのはいいことですし、このイベントはバリスタ同士が知り合い、語り合い、将来なりたい自分を目指せる場だと思います」(Angelo)

「ステージに立ってチャレンジできる競技会でありながら、とにかく楽しい雰囲気で。他のバリスタもみんな良くて、準備期間もすごく楽しかった。バリスタリーグのチームも、他の競技者たちも、ピリピリした空気が全然なかった。プロとしてステージで本気でチャレンジしながら、いい時間を過ごせる。その両立ができているのが素敵でした」(Kai)

通常の競技会との違いについて、Angeloは率直に語る。

「通常の大会は厳格でピリピリしていて、一般の方にはなかなかとっつきにくいですよね。コーヒーを飲んでいてコーヒーについて知りたいと思っている人でも、門が開いていない感じというか」

Kaiが特に評価したのは、全チームが同じコーヒーを使う「コンパルソリーコーヒー」の仕組みだ。

「バリスタ選手権も経験しましたが、コーヒーを中心に置くことはもちろん大切で、そうあるべきだと思います。ただ、徐々に希少なコーヒーの価格が上がり、予算のない競技者にとって不公平な状況が生まれてきている気がします。バリスタリーグでは全チームが同じコーヒーを使う『コンパルソリーコーヒー』の仕組みがあって、それが本当に公平な競技環境を生み出していたと思います」(Kai)

「以前『あのチームが勝ったのは、コーヒーが良かったからか、それとも本当に優れたバリスタだったからか』という疑問が生まれることがあった。でもバリスタリーグは、私たちをバリスタとしてのスキルに本当に集中させてくれる仕組みになっています」(Angelo)


ふたりがコーヒー業界の未来に望むことは、シンプルだ。

「SNSや情報があふれている今の時代、コーヒーを必要以上に複雑にしてしまいがちだと感じます。でも本当にお客さんが楽しみにしているのは、いい時間を過ごせること、そしてその体験を導いてくれる素敵なバリスタがいることだと思います。コーヒーの品質が大切なのはもちろんですが、それと同じくらい『人間としてのつながり』も大切。カフェって人が出会う場所ですから。バリスタのホスピタリティをもっと高めていく業界になってほしいです」(Angelo)

THE VOLCANO BROTHERS、主催者目線の競技者が鹿児島から学びに来た

鹿児島を拠点とするKen Sakashita&Mutsumi Kodama。ふたりは「カゴシマ ボルケーノ ブリュワーズカップ」というコーヒーコンペも自ら主催する、いわばコーヒーイベントのプロフェッショナルでもある。

昨年の東京初開催のとき、彼らはどう見ていたか。

「去年バリスタリーグが日本に来た時は、ひっそりとした感じで、大丈夫かなと思いましたよね」(Ken)

それがSNSで大会の様子が広がるにつれ、今年は応募を決意した。「インスタ上で見て、面白そうだなと。僕たちも鹿児島でコーヒーのコンペティションをやっているので、エンターテインメント性に富んだ大会がコーヒーラバー以外の人にもリーチできるという点を取り入れたいなと思って。自分自身、ここ1〜2年はずっと運営側だったので、コンペティターとしてもチャレンジしたいと思って応募したのがきっかけです」


実際に出場してみた感想を聞くと、Kenは「伸びしろあるな、って」と即答した。「自分個人の、という意味ですが」とMutsumiが素早くフォローし、その場の空気がほぐれる。

イベント主催経験者の目で見て特に印象に残ったのは、ライブ配信とコラボレーションの設計だ。

「ライブ配信の環境を整えるのはなかなか難しくて、設備がないと届かないんです。インフルエンサーの方とバリスタリーグが今回コラボしていましたけど、別のチャンネルの方々とコラボすることで波及効果があるんだな、と。巻き込む人が増えるだけで分母が増えそうなので、そこは真似したいなと思いました」(Ken)

 
大会を盛り上げたMCについても言及があった。「井崎さんのMCを学びに来ました(笑)。もう井崎さんのMCで成立していると言っても過言ではないくらい」(Mutsumi)

「ある意味優しいというか、初めてコンペに出るような方が詰まっちゃっても、ちょっと助けてくれているところがありますよね」(Ken)

今回の東京での学びは、鹿児島へのこんな還元を見据えている。

「外から来た人に褒めてもらうと、中の人間は『自分のところってそんないい場所なんだ』と再認識する。鹿児島でも、外からの目を呼び込むことにはそういう意味合いもあって。その時にクオリティが高くないと見限られてしまう」 「コーヒーを起点に鹿児島の他のいいものにもつながってほしいし、日本全体の『いいもの』が世界にもっと発信されていってほしいと思っています」(Ken)

コーヒーイベントが地域を開く入口になる──東京だけでなく、各地でそのサイクルが回り始めたとき、日本のコーヒーシーンはもうひとまわり大きくなるはずだ。

大会を終えての所感

ジャッジとして、レポーターとして、そして一人のコーヒー好きとして参加したバリスタリーグ アジア 2026。今年ほど多層的にこのイベントと関わった年はなかった。

関わったすべての人へのリスペクトを、改めて言葉にしたい。競技者、ジャッジ、MC、主催者、ロースター──それぞれの持ち場で全力を尽くした人たちによって、あの一日は成立していた。コーヒーフェスを自分自身で主催した経験があるからこそ、この規模のイベントを実現することの難しさは骨身にしみている。だからこそ、運営に関わったすべての人へのリスペクトは言葉にならないほど大きい。

今年は平日14時スタートということもあり、観覧人数は昨年より少なかったようにも感じたが、来ている人の熱量は本物だった。コーヒー業界に深く関わる人たちが、それぞれの視点でこのイベントを見に来ていた。注目度は依然として高い。

2回の東京開催を経て、このイベントが確実に根を張り始めているのを感じる。昨年のフレッシュな盛り上がりとは違う、「定着していく」という感覚だ。来年はWBCが東京で開催されるという大きな文脈もある。バリスタリーグが3回目を迎えるとき、きっとこれまでとは別次元の盛り上がりになる──そう確信している。
 
「コーヒーコミュニティからのサポートがもっと増えれば、バリスタにも、さらに良いものを返せます。バリスタに与えれば与えるほど、彼らが自分の最高の仕事を発揮できるんです」
──Vasileia Fanarioti(TBL プロジェクトマネージャー)

そのサイクルを大きく、強くしていく。それが、バリスタリーグの目指す未来であり、私たちもその歩みを見守っていきたい。


取材・文:山本翔平(CROWD ROASTER)

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